優先順位が付けられない病理
エネルギーは、金融と物流に並ぶ経済の血液である。その血液なくして経済活動はままならないのだから、本来ならば最優先されるべき政策だ。しかし欧州委員会は、あくまで原発推進を脱炭素の中に位置づける。あくまでメインエンジンは再エネで、天然ガスと並ぶサブエンジンの位置づけに、原発を引き上げたといったところが正しい。
その欧州委員会は、脱炭素のみならず、競争力と軍事力の追及も重視する。つまり環境政策と競争政策、軍事政策を同時に追求しようというわけだ。競争政策の念頭には中国がある。中国製の廉価な工業品に対して、欧州製の工業品はもともと劣位だった。さらに人件費高とエネルギー高が重なり、欧州の工業品は競争力を大きく失うに至る。
競争力を改善させるためには、設備投資を引き上げ、生産性を高める必要がある。そのための支援の必要性を、欧州委員会は声高に主張する。一方、軍事政策の念頭にはロシアと米国がある。米国からの圧力で軍事的な自立の必要性に目覚めた欧州委員会は、各国による防衛力強化のための支出増を容認するなど、防衛体制の強化に着手した。
しかし、いずれに政策にも巨額のコストがかかる。そもそも、ヒト・モノ・カネといった生産要素は有限なのだから、ある領域にそれらを優先して充てるのなら、それ以外の領域に充てることができる量は減る。ゆえに優先順位が問われるわけだが、欧州委員会はまさに“あれもこれも”の状態となっており、お手盛りの印象がぬぐえない。
脱原発を完了したドイツの困難
ドイツのショルツ前政権が2023年4月に脱原発を完了した際、内外から批判が寄せされたことは記憶に新しい。ドイツがそのタイミングで脱原発を完了した是非は問われて然るべきだが、一方で現実的な理由の一つに、原発の運営や修理を担ってきたエネルギー会社側の事情があったことは、あまり知られていない。要するに、人員不足だ。
RWEやE.ON、EnBWといったドイツのエネルギー会社は、ドイツ政府の脱原発の指針を受けて、計画的に事業を縮小させていった。そのため、原発の稼働を延長しようにも、原発事業に人材を充てることができなかったのである。このことは、政治的な判断で技術を捨てた場合、その技術を再び復活させることの難しさを端的に物語る。
他方で、現在、フランスを中心に稼働している欧州の原発は、老朽化が進んでいる。そのリプレイスメントにも、多くのヒト・モノ・カネが費やされる。加えて、新たに原発を造成するのであるなら、さらに多くのヒト・モノ・カネを充てる必要がある。原発推進の号令は大いに結構だが、実際は“言うは易く行うは難し”の世界と言える。
