「10円安く」から始まった泥沼
そんなロッテリアの運命を狂わせたのが、ロッテリアの前年に創業した「マクドナルド」との2度にわたる価格競争、ディスカウントだ。
まず1987年、マクドナルドは通常なら520円の「バーガー+ポテトS+ドリンクS」を390円に設定。「サンキューセット」として販売したところ、この年の「新語・流行語大賞」にノミネートされるほどの、爆発的なヒットを記録したのだ。
既に多店舗展開していたモスバーガーは対:マクドナルドで大きな打撃を受け、各社とも「わが社は素材重視」「安易に安売りに走らない」といった宣言とともに、競合を避けた。
その中でロッテリアは、マクドナルドとまったく同内容のセットを「サンパチトリオ」として、マクドナルドより10円安い380円で販売、真っ向からの勝負に出た。すると、マクドナルドが360円の「サブロクセット」販売でロッテリアに対抗……おにぎり1個が300円を悠々と超える令和の価値観では、とても考えられないディスカウントぶりだ。
こうして2社の競争は果てしなく続き、次回来店を促すクーポンも、現場の判断でどんどんバラ撒かれた。当時は、王者・マクドナルドとの価格競争に食らいつく存在として、ロッテリアを支持する人々も、それなりにいたのだ。
2002年にマクドナルドが「ハンバーガー59円」という業界最安値を打ち出した際にも、ロッテリアは先に述べた「サンパチトリオ」を300円に値下げして対抗し、ファンの喝采を浴びた。ロッテリアは創業当時の「高級路線・ファミレス路線」から路線転換したうえで、「王者・マクドナルドと闘う不屈のディスカウンター」に変貌したのだ。
しかし、このイメージがロッテリアを苦しめるようになった。
安売りで客を掴み、安売りで失った
ハンバーガーショップの客層の傾向として、サンキューセットや59円バーガーを支持する「ディスカウント支持層」と、高単価でも満足のいく逸品を求める「グルメバーガー支持層」が存在する。
前者は「利益を削った奉仕販売」後者は「満足できる食体験」を周囲に伝えるインフルエンサー的な役割を果たすため、集客と安定経営を両立させるには「ディスカウント支持層」と、高単価でも満足のいく逸品を求める「グルメバーガー支持層」を、両立する必要があるのだ。
マクドナルドは激安商品も定期的に世に出していたが、同時に「クオーターパウンダー」「メガマック」などプレミア感がある高単価商品を世に出し、グルメバーガー支持層にも応えていた。
しかし、ロッテリアはディスカウント層の支持にこそ全力で応えたものの、「エビバーガー」「絶品チーズバーガー」以上のヒット商品を出せず、グルメバーガー支持層を動かすことができなかった。
いわば“片肺飛行”ともいえる支持層の偏りが、ロッテリアを苦しめていく。
ロッテリア内部でも「安売り依存」への危機感は持っていたようで、マクドナルドとの価格競争のあとに重光昭夫副社長(当時)が「ディスカウント路線の撤回」を明言していた。にもかかわらず、その後の消費税増税のタイミングで「(逆に)30円値下げ」を実施するなど、緩やかに方針がブレていたのは否めない。
こうなるとロッテリアは「不屈のディスカウンター」イメージだけが先行してしまい、「むかし安かった店」として、あっさり顧客に忘れられてしまった。当然のことだが、「ディスカウント支持層」は、ディスカウントしないと支持してくれないのだ。


