こだわりの味と稲妻の焼き印

最後の最後まで議論を重ねたのは、「味」だった。「和菓子と洋菓子では甘さに対する考え方が違う。砂糖は入れるほど日持ちするので、昔は多く使っていました。今は健康志向もあり、和菓子ではできるだけ砂糖を控える傾向にあります。一方で洋菓子、特にチョコレートは甘さが肝。何十種類もの餡を試食して、考えをすり合わせ、最終的には有楽製菓の河合会長も僕も『これでいこう』と納得する味になりました」。森会長は静かに胸を張る。

仕上げとして皮に押す焼印にも手を抜かなかった。ブラックサンダーのロゴは、焼印のサイズが小さすぎて細かい部分が潰れてしまう。ブラックサンダーのキャッチコピー「黒い稲妻」から、黒く塗りつぶした稲妻にしようという案も出たが、焼き付ける面積が多いと焦げの苦味が出てしまう。最終的には稲妻の枠だけの焼印にすることに決まった。

一つひとつ、稲妻の焼き印を押していく
撮影=山田智子
一つひとつ、稲妻の焼き印を押していく

職人総動員で1日1万2000個を手作り

細部にまでこだわり抜いたブラックサンダーあん巻きは、2017年11月に発売開始。その美味しさがSNSなどで話題となり、発売から1年半で100万個の売り上げを達成した。

「こんなに売れるとは誰も予想していませんでした。月に1度行う社内の商品会議でも『厳しいんじゃないか』という声が上がっていたほどで、僕自身もここまでのヒットは想像していませんでした」と貴比古社長は驚きを隠せない。

開発を担当した石川専務は、「豊橋の有名洋菓子店のシェフが、ブラックサンダーあん巻きを食べて、『あ、これ、うまい』と口にしたのを見て、ようやく自信が持てました」と当時の心境を振り返る。

「ブームになってしまうと、長く売れなくなってしまうんじゃないかと心配したほどです。おかげさまで、今も売れ続けています」と森会長は喜びを隠せない。

販売直後は製造能力を遥かに上回る注文が殺到し、早朝から夜まで職人総動員で1日1万2000個を作り続けた。

「製造が追いつかないくらい売れてね。皮を焼く機械が壊れてしまったら全てが止まってしまうので、バックアップのために新しく1台買ったんです。でも結局は、2台をフルに使って、作り続けました」(森会長)

発売当時は1日1万2000個を手作りしていた
撮影=山田智子
発売当時は1日1万2000個を手作りしていた

今でも多い時には1日3000個、平均で2000個ほど、熟練の職人たちが変わらず一つひとつ丁寧に手作りしている。

今でも多いときは1日3000個作っている
撮影=山田智子
今でも多いときは1日3000個作っている