がんで亡くなった50代男性の話

僕の訪問診療は、だいたい1時間くらい。どんなことをしているのか、ある日の診療を紹介しましょう。

先日がんで入院していた、50歳の男性を診ることになりました。「あと1カ月もたない」と言われ退院、彼は結婚しておらず、両親と妹と同居しています。

初めて訪問して会った時いきなり、「元気な頃の写真を見せてほしい」とお願いすると、妹さんが「お兄ちゃん、写真きらいなんです……。でも、あったあった!」と持ってきてくれました。

「40代の頃、19歳とつきあってた」

写真を見ながら僕が、「君もてた? 彼女はいた?」などなど話を振ってみました。すると彼は「俺40代の頃、19の子とつきあってたんです」とぽつぽつ話を始める。お母さんも妹さんも、まったく知らなかったらしい。「ヘンタイ! 気持ち悪い!」と妹さん。

「なんで40代で10代とつきあうと、ヘンタイなんだよ」と兄も応酬。その後いろいろ話し始め、「店長をやってた当時はけっこうもてたんですよー」とか話してくれます。

最初の10分くらいは、こんな感じです。

そして、歩く話に入ります。彼は足がむくんでいるのですが、「こんなにむくんでる足が、上がるようになるかな?」と心配しています。

僕の答えはこうです。

「上がるようになるかは自分のがんばりしだい。がんばりたかったらがんばれば上がるし、がんばれなきゃ上がんねえし、俺に聞いたってしょうがないよ」

痛みがあるというので詳しく聞くと、「ベッドから起きる時、痛い」と言います。

「がん性疼痛とうつうじゃないんじゃない? がんが痛みを出すんじゃなくて、がんが太い神経にかじりついてその先が痛くなる。がん性疼痛はだんだん痛くなるもので、起きあがる時だけ痛いということはない」と説明。

末期がんで食べられなくなる

医療用麻薬はうまく使えているので、今のままでよいという話もします。

「腹水はどれくらい出てる?」

腹水は人工肛門の脇から漏れている感じでした。

「1日1リットルくらいですかね」

そして……また女性の話題に戻って、犬の話になったり。

その後、栄養の話をします。

彼が「食べられない」と言うので「どうする? 点滴にする?」と聞くと、「うーん」とうなる。

「食べられないんでしょ?」
「…………」

おそらく、がんの影響で、ごはんが食べられない。腸ががんで狭くなり、詰まってしまうのです。

ベッドに横たわる男性のがん患者
写真=iStock.com/PonyWang
※写真はイメージです