実は、この現象は偶然ではない。イクスピアリは当初、「分かりやすさ」よりも「そぞろ歩き」を重視した街として構想されていた。
オリエンタルランド元社長でイクスピアリの初代社長である加賀見俊夫氏は、著書『海を超える想像力』の中で、海外の田舎町や京都の路地のように、あえて曲がりくねった街を舞浜につくろうとしたと明かしている。買い物そのものより、街を歩く体験を楽しんでもらう狙いがあったという。
本書で加賀見氏は、「『路地の楽しさを舞浜に』と言いつづけてきた。買い物だけが目的なら百貨店や行きつけの店に行けばよい。だが、リゾートでのショッピング体験はまた別ものである」(p.167)と述べている。
「迷路のような道」が“壁”になっている
ところが現在、その前提条件は大きく変わりつつある。高いテーマ性を持つ外観とは裏腹に、各ゾーンのテナントはチェーン店が中心で、映画館の上映作品も一般的なラインナップにとどまる。もはや「路地の奥まで足を運ぶ理由」が提示されているとは言い難い。
結果として、入り組んだ通路は「発見の導線」ではなく、「特に用事がなければ引き返す理由」へと変わった。分かりにくい構造と目的性の弱いテナント構成が重なり、人の流れは入口付近で滞留し、奥まで波及しない。
かつて、発見の楽しみを生むために設計された見通しの悪さは、いまやゲストにとって物理的・心理的な「障壁」となり、施設全体の利用範囲を狭める一因となっている。
ランチ2000円でも「和幸」にだけ行列ができるワケ
正午過ぎ、4階のレストラン街を歩いた。すき焼きの「人形町今半」や高級寿司店といった店が並ぶものの、高価格帯の店は総じて閑散としている。ところが、とんかつチェーンの「和幸」だけは例外で、入り口には4組ほどの列ができていた。
和幸は全国の駅ビルや商業施設でおなじみのチェーン店だ。ランチ価格は1500〜2000円程度と、決して安くはない。それでも、この店だけが選ばれている。
この光景は、現在のディズニーパークを訪れるゲストの消費心理をよく表している。高額なチケット代に加え、パーク内での飲食やグッズ、有料パスなどで支出を重ねた後、食事の場にまで「冒険」を求める余裕がなくなっているのだ。
なじみのない店で失敗したくない。味が想像でき、確実に満足できる店を選びたい。そうした心理のもとでは、「どこにでもあり、外しにくい」ブランドが最も合理的な選択肢になる。
財布を開く準備はできているが、精神的な疲れも重なり、最後は「知っている安心感」へと引き寄せられる。イクスピアリでは今、「何を楽しむか」よりも「いかに失敗しないか」が重視されており、その象徴が和幸の行列なのである。
そしてこの傾向は、よりカジュアルなフードコートで、さらに鮮明に表れていた。
