なぜ香港の地下鉄のイスは硬いのか
香港の通勤電車や地下鉄には、ステンレス製のロングシートが使われている。お尻は冷たいし、硬いし、ブレーキがかかると踏ん張らないとすべってしまう。
工場で製作中に、たまたま家族のための工場公開があったが、完成した車両を見られた奥さん連中が、みな同様に「この車両はまだ椅子がついていないの?」とおっしゃられたことを思い出す。
日本では、地下鉄といえども柔らかな、クッションのきいた座席が当たり前であり、過去にFRP製の座席が試行されたこともあったが、不評でその後は続かなかった。デザイン提案前に、現地の調査をした筆者も、ステンレスの座席などもってのほかと思い、クッションつきの日本式の座席を提案した。ところが即座に却下。
ステンレスが滑るというなら、滑らないステンレスのものを提案とするようにと注文されてしまった。どうしてもわけがわからず、客先の担当者の方に聞いたところ、意外なことを教えられた。
高温多湿の香港で大切にされること
それは香港の人は、冷たい感触が好き、ということであった。人が立った後に座った時、前の人の体温が残っているのは気持ちが悪い、というのだ。金属製であれば熱伝導率が高く、いつもひんやりとしていい、らしい。
香港は高温多湿であり、人が気持ちよく思うのは冷たさであり、それが証拠に、世界で一番寒いオフィスは香港である、とも言われていた。確かに、ホテルでは、いくら室温調整を25℃とかにしても、ハウスキーピングが入ってくるたびに冷房の設定を最低(最強)にされてしまう。
これこそが、香港でもっとも大切なおもてなしなのだ、というのである。その他にも蒸し暑い環境では虫がわく、とかステンレスの座席なら、きれいにする必要がない(みんなのお尻でいつも拭かれるから)、とかも説明されたが、香港であるが故の理屈があり、ここにもまことに日本の常識が通用しないことを感じた。

