todoリストが“義務リスト”に

ただ、この原則を“例外なきルール”として抱え込みすぎると、逆に時間を浪費してしまうことがあります。あるエンジニアのナカムラさんの例をご紹介しましょう。

仕様変更が多い案件で、完璧を求めすぎて修正を重ね、結果的にリリースが遅れました。彼の中では「完璧な状態で出すべき」「ミスをしてはいけない」という思いが強すぎたのです。途中経過を共有すれば、上司の判断で方向転換もできたはずですが、「未完成なものを見せてはいけない」と感じていました。

これも典型的な“すべき思考”です。時間を守るための完璧主義が、結果として時間を奪う。これは多くの職場で起こる矛盾です。

すべき思考に支配されると、人はtodoリストを“義務リスト”にしてしまいます。「やりたいこと」「成長につながること」よりも、「やるべきこと」にばかり時間を割くようになります。その結果、目の前のタスクは片付いても、心は疲弊し、やる気が低下していきます。

さらに厄介なのは、達成しても満足できないことです。「もっと早く終えるべきだった」「もっと質を上げるべきだった」と、どこまでいっても“完了”の感覚が得られません。これは自己効力感(やればできるという感覚)を下げ、慢性的な疲労と自己否定を招きます。

背景の壁に描かれたタスクを表すアイコンから逃げるビジネスマン
写真=iStock.com/Rawf8
※写真はイメージです

完璧主義を抜け出す最短ルート

すべき思考から抜け出す第一歩は、「相談する勇気」を持つことです。「納期は絶対に守るべき」と抱え込み、すべて自分で処理しようとする人ほど相談をためらいます。しかし、現実には相談こそが最短ルートになることがあります。

たとえば、「このままではクオリティを落とすリスクがあるので、納期を数日延ばせないでしょうか?」「予算が少し増やせれば、外部の人を手配して納期に間に合います」。

こうした相談をすることは、決して“逃げ”ではありません。むしろ、プロジェクト全体を俯瞰し、最適なリソース配分を提案する“能動的な判断”です。「自分が全部やらなければならない」「相談したら弱いと思われる」という発想こそが、すべき思考の落とし穴です。現実を共有し、調整することで、結果的にクライアントやチーム全体の満足度も高まるのです。

もうひとつのポイントは、言葉のトーンを少し和らげることです。

「上司の依頼はすぐ対応すべき」→「上司の依頼にはなるべく早く対応したほうがいい」
「納期は絶対に守るべき」→「納期を守るために、調整を含めて進めたほうがいい」
「一人で責任を果たすべき」→「チームで分担したほうが効率的だ」

この小さな言い換えが、心の硬直をゆるめます。人は「〜しなければならない」と思うと緊張し、「〜したほうがいい」と思うと行動がしやすくなります。言葉の違いは、行動の柔軟性を生むのです。