todoリストが“義務リスト”に
ただ、この原則を“例外なきルール”として抱え込みすぎると、逆に時間を浪費してしまうことがあります。あるエンジニアのナカムラさんの例をご紹介しましょう。
仕様変更が多い案件で、完璧を求めすぎて修正を重ね、結果的にリリースが遅れました。彼の中では「完璧な状態で出すべき」「ミスをしてはいけない」という思いが強すぎたのです。途中経過を共有すれば、上司の判断で方向転換もできたはずですが、「未完成なものを見せてはいけない」と感じていました。
これも典型的な“すべき思考”です。時間を守るための完璧主義が、結果として時間を奪う。これは多くの職場で起こる矛盾です。
すべき思考に支配されると、人はtodoリストを“義務リスト”にしてしまいます。「やりたいこと」「成長につながること」よりも、「やるべきこと」にばかり時間を割くようになります。その結果、目の前のタスクは片付いても、心は疲弊し、やる気が低下していきます。
さらに厄介なのは、達成しても満足できないことです。「もっと早く終えるべきだった」「もっと質を上げるべきだった」と、どこまでいっても“完了”の感覚が得られません。これは自己効力感(やればできるという感覚)を下げ、慢性的な疲労と自己否定を招きます。
完璧主義を抜け出す最短ルート
すべき思考から抜け出す第一歩は、「相談する勇気」を持つことです。「納期は絶対に守るべき」と抱え込み、すべて自分で処理しようとする人ほど相談をためらいます。しかし、現実には相談こそが最短ルートになることがあります。
たとえば、「このままではクオリティを落とすリスクがあるので、納期を数日延ばせないでしょうか?」「予算が少し増やせれば、外部の人を手配して納期に間に合います」。
こうした相談をすることは、決して“逃げ”ではありません。むしろ、プロジェクト全体を俯瞰し、最適なリソース配分を提案する“能動的な判断”です。「自分が全部やらなければならない」「相談したら弱いと思われる」という発想こそが、すべき思考の落とし穴です。現実を共有し、調整することで、結果的にクライアントやチーム全体の満足度も高まるのです。
もうひとつのポイントは、言葉のトーンを少し和らげることです。
「上司の依頼はすぐ対応すべき」→「上司の依頼にはなるべく早く対応したほうがいい」
「納期は絶対に守るべき」→「納期を守るために、調整を含めて進めたほうがいい」
「一人で責任を果たすべき」→「チームで分担したほうが効率的だ」
この小さな言い換えが、心の硬直をゆるめます。人は「〜しなければならない」と思うと緊張し、「〜したほうがいい」と思うと行動がしやすくなります。言葉の違いは、行動の柔軟性を生むのです。

