いっしょに鍵を開ける人でありたい

二つ目の理由は、シンプルだから。素材を最大限に生かしつつ、調理する人はそれを引き出すための最小限の役割だけを担っている。

三つ目は、つくっている様子が見えて楽しい。つまり、五感で堪能できるから。焼き鳥や寿司店のカウンターで話すときは、前向きな気持ちになれる気がします。

そして、こういうシーンで僕がするのは、「泊まれる美術館」の話です。

国内外の建築家10人に、「美術館自体がインスタレーションとなるような建物で、かつ泊まれる建築」をつくってください、とオファーする。

で、広い敷地にそれらを集めて美術館をつくる。そこを訪れれば、建築家がつくったアートとしての建築を見ることができて、しかも泊まれる――ね? 楽しいでしょう、と。

「門」の中に「人」と書いて「閃く」と読みますよね。

僕はこの文字を見ると想像するんです。自分のやりたいことがわからない人の頭の中には門がある。その門には鍵がかかっているので、門の先にあるものが見えません。

ところがそこへ人がやって来て、コミュニケーションが生まれることで解錠され、門が開く。門の先には新しい何かが待っていて、それが「ひらめく」っていうことなのかな、と。

これは僕の勝手な解釈ですが、僕が会話をしたいのは、そうやっていっしょに鍵を開けてくれる人。

自分も誰かにとっての、そういう存在でありたいと思います。

自分のジャッジを信じ抜く

ところで、人付き合いにしろ仕事にしろ、僕は「断ってしまったけれど、やっておけばよかった」というような、後悔や未練を抱くことはほとんどありません。

その理由のひとつは、それを選ばなかったことで、もっとよいことと出合えているはずだから。

小さい頃、祖母から「捨てる神あれば拾う神あり」とよく聞かされていましたが、まさにその通り。これまで経験した多くの場面を振り返っても、そういうことがたくさんあったのです。

とはいえ、若いうちは、自分の選択に未練が残ることだってあるでしょう。自分が断った仕事を同僚がやって成果をあげているのを見て後悔する……といったこともあるかもしれません。

谷尻誠『建築家で起業家の父が息子に綴る「人生の設計図」』(三笠書房)
谷尻誠『建築家で起業家の父が息子に綴る「人生の設計図」』(三笠書房)

もしも、それが自分で決めたことならば、

「なぜ、断ったのか」
「なぜ、後悔しているのか」
「次に同じことがあれば、どうするのか」

と、自問自答してみるのもいいでしょう。問いを繰り返すうち、ジャッジの迷いも、未練を持つことも次第に減っていくはずです。

反対に、人に言われて決めたことだとしたら、誰かに責任転嫁したくなり、理由や改善策を考えるまでには至りにくい。きっとまた同じことを繰り返してしまいます。

だからこそ、自分で考えることをサボらず、一つひとつを「自分事」としてジャッジしてほしい。

自分のジャッジを信じられれば、未練が残ることはない。

未練がなければ、他人を妬んだり、ウジウジしたりすることも減り、生きるのがぐっとラクになります。

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