市場調査より、自分の手触りを重視
「スティーブは、マウスなど、なんでも手にとって確かめるようになりました。製品を手にとってはさわり心地や見え方などを、いろいろな角度から確かめていました。その製品には、デザイナーが取り組んでいたバージョンが3つか4つあり、自分の好みのものを選ばなければなりませんでした。
彼は市場調査には関心がなく、信用もしていませんでした。どんな素材を使うか。どんな形にするか。自分の感覚を信じていました。かなりの自信をもっていました。彼が重視していたのは、製品がユーザーにどんな印象を与えるのかということでした。製品を欲しいと思わせることができるか。製品に惚れ込んでもらえるかということです」
アップル製品はどこか丸みを帯びている
ジョブズが、1998年に発表したiMacは、半透明でカラフルなボディーと、丸みを帯びた親しみやすいデザインで、世界的に大ヒットした。このデザインには、日本の伝統的な壺が大きなインスピレーションを与えていた可能性がわかってきた。その後、アップルの製品はモニターからマウスに至るまで、いたるところに美しい「丸み」のデザインが盛り込まれていった。
──彼はあなたに、日本の壺のカーブや丸みを製品に取り込みたいと言ったことはありますか?
「彼は丸みのある面が好きでした。初代のマッキントッシュを見れば、コンピューターの側面に丸みがあるのがわかるでしょう。彼がそう言っていたのであれば、私には納得がいきます」
目的のある「シンプルさ」は長く愛される
──アップル製品と日本の美意識のシンプルさは関係があるのでしょうか?
「スティーブはそう信じていました。彼は、禅の日本的な解釈は英知だと信じていました。彼にとって英知の解釈とは、『洗練を突きつめるとシンプルになる』であり、シンプルさには目的があるということでした。彼はこう言っていました。『日本の文化に偶然の産物はなにもない。すべてのものには目的があり、それは何世紀にもわたって発展し、継続するのだ』と。
アメリカでは、素早く製品を作って人気が出ても、すぐに消えてしまいます。スティーブが目指したのは、そういうものではありません。彼は日本文化から時代を超えた価値や物事には理由があることを学びました。彼がやることにははっきりとした目的があり、偶然でやったことは一つもありませんでした。
彼は、『アップルのものづくりに妥協はない』と言いました。『シンプルに、そして我々が目指す完璧なものを作る。それを急がずにきちんとやるんだ』と」


