ジョブズが「プレゼンの天才」になれた理由
「スティーブの言動は一見すると即興的に見えますが、実際には綿密にリハーサルを繰り返していました。彼は常に完璧であることを望んでいました。プレゼンテーションの最後に、『そしてもうひとつだけ(And one more thing)』というフレーズで有名になりましたが、それはいつも最も重要なことでした。
彼の完璧主義は、製品、プレゼンテーション、チームをリードして、モチベーションを高めたのです」
ところで、僕が取材したジョブズのエピソードの中で、スカリーさんにウケたものがあった。ジョブズが「髪梳ける女」を買ったとき、彼はコンピューターで全体を動かしてみたいと言った。それを聞いたスカリーさんは、「ははは」と愉快に笑った。
「そんな話は初めて聞きました。画廊の人はさぞ驚いたことでしょう。日本の木版画の絵は動きませんからね。もちろん、コンピューターのスクリーンで全体を動かすことはできますよ。いかにもスティーブが言いそうなことですね」
焼き物から学んだ作り手のこだわり
スカリーさんと訪れたニューヨークのメトロポリタン美術館で、ジョブズは新版画について興奮しながら説明し、焼き物のことも話した。ふたりのやり取りは、ジョブズの自伝ではあっさりと書かれているが、僕の取材テーマに焦点を当てると、とても大切な瞬間だった。
──彼は日本の焼き物に何を見いだしたと思いますか?
「メトロポリタン美術館で日本の焼き物を見ていたときのことです。展示品に触れることはできませんが、8世紀までさかのぼる古いものもありました。スティーブは、『素材を見てくれ。細部を見てくれ。アーティストは欠けているように見えるものを残しているが、それは完璧にするための一部なんだ』と話していました。
彼は細部を指摘して、アーティストの微妙なこだわりを言いたかったのです。アーティストの考えが、とても力強く伝わってくるのを感じました。
スティーブは物事をよく考え、製品を愛していました。彼は売れるものを考えていました。彼は、日本文化が培ってきたものをいかに取り入れるか。このことをずっと考えていました」
ジョブズのモノづくりへのこだわりは、信楽焼の「蹲(うずくまる)」という壺をさわりながら、肩のカーブの感触を確かめていたときの姿とも重なる。スカリーさんが、ジョブズが品定めをする様子について語った。

