地球の約200倍の放射線に耐えられる家
では、月で家を作るには、どんな課題があるのだろうか。
まず、大きな課題は放射線。地球上では大気に守られて地表に届かない放射線が、月面には降り注ぐ。その量は地表の約200倍にもなる(ISSよりも多い)。放射線は人体だけでなく、建築物の材料にも悪影響を及ぼす。
放射線を防護するには、月面上の家なら厚さ約3~4mの盛り土で覆うか、地下で暮らす方法がある。月には巨大な地下空間(溶岩チューブ)がある。溶岩チューブの天井が崩落した孔は縦孔と呼ばれ、直径数十mの孔が月の「静かの海」やマリウス丘など数か所に見つかった。
解析の結果、マリウス丘地域の溶岩チューブは月の地下約50~数百mに約50kmにわたって広がる巨大な空間だとわかり、世界の注目を集めた。溶岩チューブ内なら、受ける放射線の量は格段に減る。
月面に降り注ぐのは放射線だけではない。隕石などの小天体も宇宙からやってくる。地上では大気があるため、小さな隕石は大気層を通過する間に流れ星になる。でも月面ではそのまま地表までたどり着く。
怖いのは2次被害。放射線は月面の砂と反応して2次放射線となるし、月面にぶつかった隕石などの小天体は細かく砕けて、かなりの距離を高速で移動する。
約270度の温度差を考慮した「建築立地」
次の課題は「激しい温度差」だ。
月では、約14日間続く昼の温度は100度を超える。一方、約14日間の夜にはマイナス170度ぐらいまで温度が低くなる。約270度以上もの温度差は、地球上で使っている断熱材ではとても防げない。
特に問題になるのは昼間の温度。太陽の熱は空気を伝わるのでなく、電磁波として熱が直接伝わる。真夏の直射日光に照らされた車のボディをイメージすればわかりやすいかもしれない。車体をさわるとやけどしそうに熱くなった時の車内は、蒸し風呂状態で入れないほど。そのボディが100度以上の高温になったら、とても耐えられそうにない。
一方、月の地下数mや縦孔内は十数度~20度で安定しているというデータがある。
これらのことから月の家は、日陰や地下に作った方がいいと考えられる。太陽光の当たる場所に太陽光発電パネルを置いてエネルギーを作り、そのエネルギーで冷暖房する。「作ったエネルギーや熱を逃がさないようにする工夫が必要になるでしょう」。構造を専門とする大畑勝人さんが説明する。

