※本稿は、林公代『宇宙にヒトは住めるのか』(ちくまプリマー新書)の一部を再編集したものです。
月で育てて食べる「月産月消」を目指して
JR松戸駅から歩いて約15分。千葉県松戸市にある千葉大学園芸学部には、洋風庭園やビニールハウスが広がる。こののどかなキャンパスの一角に、月面農場を模擬した植物工場があるとだれが想像するだろう。たどり着いたのは「閉鎖型植物生産研究施設」。25年前に建てられた施設で、その後様々な機能が継ぎ足されてきたという。
案内して下さったのは、月面農場の研究を日本で長く主導してこられた、千葉大学宇宙園芸研究センターの後藤英司教授。後藤教授に続いていよいよ中へ。「どんな月面作物と会えるのだろう!?」とドキドキする。
工場に入る前に、いくつかのステップがあった。まず不織布の白衣を着て、手を消毒する。次に約20秒間、エアシャワーをあびる。この閉鎖施設には、キャンパス内の畑や水田などから植物学や農業関係の研究者たちがやってくる。植物ごとに病虫害を起こす色々な虫がついている恐れがあり、内部に持ち込まないようにするためだ。
エアシャワーを通ると、5つの栽培エリアに面した小部屋に出た。一つ一つが作物や研究テーマごとに温度や湿度などの環境を変えた植物工場で、ドアがきっちり閉められている。
いよいよ「月面作物」と対面
「では月面を想定した栽培エリアに入りましょう」
後藤教授が「完全人工光型植物工場」と書かれたドアを開けると、天井まで届く大きなロッカーのような銀色の扉が、細い通路の両側にずらりと並んでいた。取材に伺った日は初夏で外を歩くと汗がにじむほどだったが、内部はひんやりと涼しい。
ドアの一つを後藤教授が開けたとたん、甘い香りがふわ?っと広がる。内部には真っ赤に熟したイチゴが、3段式の栽培エリアいっぱいにたわわに実っていた!
「わぁ、美味しそう!」
取材チーム3人は思わず声をあげた。イチゴは冷涼な気候を好むため、この栽培エリアは4月ぐらいの気候条件に設定していたのだ。
ここでイチゴがどう育てられているか説明する前に、少しだけ背景を。
宇宙であれ地上であれ、人は食べないと生きられない。だが、周りに田んぼも畑もスーパーマーケットもない宇宙空間で、食をどうまかなうかは宇宙船の開発と同じぐらい重要になっている。現在、ISS(国際宇宙ステーション)では300種類ほどの宇宙食から好きなものを選ぶことができる。ステーキやハンバーグ、宇宙日本食にはカレーやラーメン、高校生が開発した鯖の缶詰めもあり、宇宙食のバラエティは増えてきた。
だがそのほとんどはレトルト食品やフリーズドライなどの保存食で、新鮮な野菜やフルーツは数カ月に一度、地上から貨物船が運ぶだけ。その時が宇宙飛行士は何よりの楽しみだと聞く。




