「月産月消」が必要な理由

月で暮らすとなったらどうだろう。地球から月までは片道3日以上かかる。さらに輸送費は1kgあたり1億~2億円にもなる。5kgの米袋一つで10億円! すべての食材を地球から月に運ぶのは、非現実的だ。そうなると、月で作物を育てなければならない。

そこで月で育て、月で食べる「月産月消」を目指そう! という目標が掲げられた。その研究の最前線が、ここ植物工場で進行中なのだ。これは政府のスターダストプログラムの1つ(農林水産省の「月面等における長期滞在を支える高度資源循環型食料供給システムの開発」)であり、特別な許可を得て取材が許された。

このプログラムが目指すのは、月で水や廃棄物などの資源を循環しながら作物を育てる月面農場の実現。約30の企業や研究機関などが技術と知恵を結集し、世界をリードする研究開発が進められている。

月面農場のコンセプト検討は長くJAXAなどで行われてきた。まず、議論になったのはどんな作物を月で育てるのか。専門家による議論の結果、8種類の作物が選ばれた。「イチゴ、レタス、トマト、イネ、ジャガイモ、サツマイモ、キュウリ、ダイズ」だ。

その8種類の作物を、できるだけ小さな空間で効率的に、美味しく、さらに人手をかけないで育てるための研究開発が、スターダストプログラムの元で進められている。

施設内で栽培されているイチゴ
施設内で栽培されているイチゴ(出典=林公代『宇宙にヒトは住めるのか』(ちくまプリマー新書))

月面イチゴは「種から」育てる

月面イチゴの開発には国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)と「いちご王国」栃木県と三重県が参加している。これらの研究機関は、種子繁殖型イチゴを世界に先駆けて開発した。

通常、イチゴを育てる時は、親株から枝分かれした枝(子株)を植木鉢などに植えて、翌年にかけて徐々に大きな苗に育てる。その間に病気に感染すると苗が全滅してしまうこともあるため、作業は慎重に行わないといけない。「イチゴほど手間がかかるものはない」と言われるそうだ。

一方、15年ほど前に種から育てられる種取りイチゴが開発された。トマトやキュウリなどと同じように、種をスポンジに植え付けて水を与えると発芽し、大きな株になってイチゴが実る。「月みたいに人手がかけられないところでは、種をまけば放っておいても育つタイプの品種を選ぶことにしたんです」。後藤教授の説明に納得する。

肝心の味は?

「20年前のイチゴの味」。酸っぱくなく、糖度も高い。少し小ぶりと後藤教授は言うが、実際に植物工場で育っているイチゴは、ぽってりと大きく、見るからにジューシーで美味しそう。どうやってこんなに大きく育てることができたのか。

種から育てられた月面イチゴと後藤英司教授
種から育てられた月面イチゴと後藤英司教授(出典=林公代『宇宙にヒトは住めるのか』(ちくまプリマー新書))