天井が高すぎるのは困りもの
月の家についてTSXの皆さんと話し合っている時、こんな意見が飛び出した。
「環境を作る側の人間から言うと、天井はあまり高くしてほしくない」
技術研究所で室内環境やニオイ、ホコリなどの空気の質を研究する谷英明さんは、その理由を話し始めた。
「天井を高くするということは、空間が大きくなって、空気がたくさん必要になるということです。『照明をどこにつけますか?』という問題もあります。照明で光が届く範囲は限りがある。めちゃくちゃ高い天井に照明をつけると、手元に光が届きにくくなる。天井の高さは地上の1.5倍ぐらいならいいですが、3倍とか6倍になると厳しいですね」
天井は高ければいいというわけではなかった! と谷さんの言葉で気づかされる。日本の建築基準法では、居室の天井の高さは2.1m以上と定められている。6倍すると約12m! 天井が高くなればなるほど空間は大きくなり、たくさんの空気が必要になる。地上では空気があるのは当たり前だから疑問に思わなかったけれど、月では空気は作るか地上から運ばないといけない、貴重な資源なのだ。
そして空気の量が多くなれば、温度・湿度を一定に保つため、具体的には冷暖房のためのエネルギーもよりたくさん必要になる。大空間を作るための建築材料も調達しなければならないし、照明もあちこちにつけないといけなくなる。そもそも、天井だけ高くした場合、その空間は住人にとって気持ちいいのだろうか。
月での生活で必要不可欠な「トレーニング」
すると、田中匠さんから「重い服を着るとか、重い靴を履くっていうのはありかもしれないね」というアイデアが。「もし月に住んでいる人が数か月後に地球に戻るとしたら、(月の低重力で)骨や筋力が衰えないように、毎日一生懸命トレーニングしないといけないですよね。トレーニングの代わりに、重い服や重い靴で生活したらどうだろう」
なるほど、重い靴を履けば、飛び跳ねる高さが抑えられるから天井がそんなに高くなくてもいいし、トレーニングにもなって一石二鳥だ。上の階に行きたい時だけ靴を脱いで、ひとっ飛びすればいい。
その一方で、月に旅行する人たちは、6分の1の重力で飛び跳ねるのを楽しみにしているのではないだろうか。すると他のメンバーから「旅行者向けの月面ホテルとか、月に長期滞在する人のレジャー用に、天井が高い「弾ける部屋」を作ればいい。そこでは思う存分飛び跳ねて、月の重力を楽しんだらいいと思います」と解決案が出る。
それはいい案かもしれない。この議論でわかったのは、重力という1つの条件だけで天井の高さを決めるのでなく、空調や照明、住む人の感情や健康状態など、様々な観点を考慮して、天井の高さや空間の使い方を考えなければならないということだ。

