アレルギー性鼻炎の経済的損失は大きい

こうした影響の積み重ねにより、花粉症はくしゃみや鼻水といった一時的な不調にとどまらず、仕事のパフォーマンスや認知機能にまで影響を及ぼす慢性的な健康問題として捉える必要があります。実際、米国の研究では、アレルギー性鼻炎による労働損失は1日あたり平均2.3時間に相当し、その経済的損失は高血圧や糖尿病、喘息よりも大きい可能性があると指摘されていますLamb et al., 2006

このような背景から、政府も花粉症を個人の健康問題にとどまらない社会・経済的課題として位置づけています。2023年5月に公表された「花粉症対策の全体像」では、健康被害に加え、労働生産性の低下を含む社会的影響の大きさが明示されました内閣官房.2023。企業にとっても、従業員の花粉症対策は、働きやすさの向上だけでなく、生産性向上の観点からも無視できない課題であると言えるでしょう。

鼻炎で鼻をかむ女性
写真=iStock.com/mapo
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約80%の患者で症状軽減が期待できる「舌下免疫療法」

治療の最前線も変化しています。かつては、薬で症状を抑えることを目的とした「対症療法」が中心でしたが、近年は治療の考え方自体が進化しつつあります。最新の花粉症治療では、従来の症状抑制に加え、花粉に対する免疫反応そのものを調整したり、症状の重症化を予防する視点が取り入れられています。

こうした背景から、日常生活で花粉への曝露を管理しながら、発症メカニズムそのものに介入する「根本治療」を視野に入れた治療戦略が主流になりつつあります。

なかでも注目を集めているのが、舌下免疫療法です。舌下免疫療法とは、アレルギーの原因物質を舌の下から吸収させ、徐々に体に慣らすことで免疫反応を調整する治療法のことです。3〜5年間の継続治療によって、約80%の患者で症状の軽減が期待できるとされる、根本治療に近い治療法となります日本アレルギー学会.2025

これまで、対症療法が中心であった花粉症治療において、症状の長期的な改善が期待できる選択肢として位置づけられています。一方で、スギ花粉の飛散時期である2月から5月には治療を開始できないため、十分な効果を得るためには飛散シーズンを見据えた長期的な治療計画が必要となります。

さらに近年では、最新の遺伝子工学的アプローチを用いた新薬開発も進んでおり、花粉症を「克服を目指せる病気」へと捉え直そうとする動きが加速していますZhang et al., 2026