「打ち明けない」ことの健康リスク

また、自分の思いを人に話しているうちに、自分の中のモヤモヤがはっきり形をとってくることがある。心の中に渦巻いている自分の思いを率直に語ることで、自分が何にムシャクシャしているのか、何が不満なのか、何を苦痛に思っているのか、何を求めているのかが徐々に見えてきたりする。これが自己明確化効果である。

だれにも自己開示をしないことが、ストレスの心身への悪影響につながっていると考えられるが、心理学者ペネベイカーは、自己開示の効用に関する多くの実験的研究を行っている。その結果、心の傷になるような衝撃的な出来事についてだれにも打ち明けたことのない人たちには、身体的な病気や心理的障害が生じやすいことを見出している。

また、配偶者の死を経験した人では、そのことについて友だちに話している人より話していない人の方が、病気にかかる率が高く、その死にまつわる嫌な思いが頭から離れない傾向があることもわかっている。このように、自己開示できる相手がいないとストレスによるダメージを軽減することができず、自己開示できる相手がいるだけでストレスを緩和することができることは、科学的に証明されている。

書くことで心を整える筆記開示の驚くべき効果

率直に自己開示し合える人間関係をもつことがいかに大切かがわかるはずだ。そうは言っても、自己開示できる相手がいないこともあるだろう。また、内容によっては、人には言いにくいことや言いたくないこともあるだろう。たとえば、嫌らしい裏表人間に腹が立って仕方がないのに、その実態をやたらと同僚に言うわけにもいかない、というようなこともあるかもしれない。

そのようなときに有効なのが筆記開示だ。人に自己開示する代わりに、日記のようにノートに自分の思いを書き記すのである。たとえば、腹が立つこと、ムシャクシャする思い、気になっていること、不安な思い、悩んでいることなどを紙に書く。筆記による自己開示にもカタルシス効果や自己明確化効果があることが、心理学の研究によって確認されている。

ジャーナリング
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ペネベイカーは、心の傷になるような衝撃的な出来事やそれにまつわる思いについて書かされた人は、ささいなことを書かされた人よりも、書いた直後の時点では血圧が高く、否定的な感情に支配されがちであるものの、6カ月後の時点では逆により健康であることを見出している。

自分にとってショックな出来事を記述すると、一時的には嫌な気分になる。しかし、自己開示によるカタルシス効果や自己明確化効果が働き、気分がスッキリするとともに、自分を冷静に見つめ直せるようになる。その結果、長期的にみれば健康に好ましい影響をもたらすのである。