「まーちゃん」だからこそ
勤続44年ともなると、お客さんの中には、幼稚園児の頃から通い、現在は大きくなった子どもを連れて来てくれる人もいる。小さな頃から本田さんのことを「まーちゃん」と呼び、長年通い続けてくれるそうだ。
マネージャーの岩木さんに本田さんが愛される秘訣を聞くと、「キャラクター」という答えが返ってきた。
「本田さんはお客さんの懐にスッと入っていくタイプ。結構ぐいぐいいくんですよ。先日も、上着を着せることを断っていた男性を遮ってまで着せてあげていて、皆さん笑っていました。本田さんだからできる熟練のトークみたいなものを感じますね」
本田さんは、職場の同僚にも慕われている。周りのスタッフ、特に大学生とは「孫とおばあちゃん」のような関係性で壁を感じさせないという。
本田さんは、これまで10人以上のマネージャーのもとで働いてきたが、岩木さんのことを「今までで一番相談に乗ってくれる人」と話す。実際、本田さんは最近まで兄の介護をしていたこともあり、病院に連れていくための休みなどを岩木さんに相談していた。
「岩木さんは物腰がやわらかくてね、何でも相談できる人。やさしいからやる気も出てくるね。もうどこにでも岩木さんについて行きたいって感じ」
顔を見合わせて笑う2人の間には、まるで本物の母と息子のような温かい空気が流れていた。
意外な「健康の秘訣」は…
現在85歳の本田さんに健康の秘訣を聞くと、「晩酌」だと照れくさそうに笑った。なんと、毎晩欠かさず2本のチューハイを飲むのが日課で、仕事終わりに一杯やるのが何よりの楽しみだという。
しかも、本田さんはお米もたくさん食べる。朝と夜で、合計2合の米を平らげるというから驚きだ。
「ご飯が大好き。パンより米だね。つまみもたくさん食べる。にんにくが好きでね、何にでもにんにく入れちゃうの。買い物行ったら、いっぺんに塊を3つくらい買う」
周りの人との関係性にも、健康のヒントがあるように思えた。本田さんは「週に2回は友だちと飲みに行く」という。仕事終わりの21時から24時まで飲むこともある。それを聞いた岩木さんは驚いて、「大学生みたいだね」と笑った。
本田さんの周りにはたくさんの「遊び仲間」がいる。飲み、銭湯、カラオケなど。数年前まではゴルフのホールも回っていた。本田さんは一人暮らしだが、家の電気がつくと「まさちゃんおるわ」と、近所の人が訪ねてくる。玄関に野菜が届いていることもあるという。
「一人暮らしで寂しいと思ったことない。夫との暮らしが大変だったからね。今が一番幸せ。職場も近所の人もいい人ばっかで、本当に幸せ」
かつてお父さんに虐められる母の姿を見ていた娘は、小さな頃からずっと本田さんの味方だ。同じ愛知県内に住む彼女は、「もし働けんようになったら、私がちゃんと見てあげるでね」と声をかけているそうだ。
次の目標は「PPK」
四季は名古屋駅周辺の再開発計画によって、2026年3月22日のランチタイムを最後に、営業を終了することが決まっている(名鉄グランドホテルの宿泊と一部レストランは営業を継続する)。
本田さんは「退職後はゆっくりしようかな」と考えているようだ。しかし、きっと家でじっとすることはなく、たくさんの友だちとあちこちに出かけるだろう。
本田さんに働き続ける理由を聞くと、「居心地がいいから」と笑う。いい人に恵まれ、人に会えることが楽しみだから働く。本田さんを見ていると、周りの人からパワーをもらい、本田さんもまたそれを周りに返しているような心地よい空気を感じた。
最後に、本田さんは冗談っぽくこんなことを言った。
「あとは、あれね。PPK」
「PPKってなんですか?」
「ピンピンコロリ。ピンピンしとって、この年でコロッといっちゃうのが一番いいでしょ」
ウフフと少女のような笑顔で笑う本田さん。この愛らしさを見て、ファンになってしまうお客さんがいるのも頷ける気がした。




