意識の「矢印」を相手に向ける

ただ、「無」で聞こうとしても、気を抜くとやっぱり意識が自分に戻ってしまうことがあります。

人見知りの人は、

「どう思われているか」
「何を言えばいいか」
「失敗していないか」

といったように、無意識下では意識の矢印が常に自分に向いているからです。

だからこそ、矢印を意識的に相手へ向ける訓練が必要なのです。

「会話を盛り上げる」をやめてみた

ある日、私は“無理に会話を盛り上げようとするのをやめる”という実験をしました。

相手の言葉を聞きながら、心の中でこう問いかけてみたのです。

「この人は今、何に一番気持ちを込めて話しているんだろう?」

すると、不思議なことに、相手がどんどん話してくれるようになりました。

アクティブ・リスニング(積極的傾聴)の研究でも、聞き手が相手に注意を向けるだけで信頼関係が強まり、相手の満足感が高まることが示されています。

人見知りの人ほど、実はこの「矢印の切り替え」が得意です。

もともと繊細で、相手の変化に気づきやすいからです。

問題は能力ではなく、矢印の向きだったのです。

もし次に誰かと会話をする機会があったら、心の中でこう問いかけてみてください。

「この人は今、どんな気持ちで話しているんだろう?」

それだけです。答えを出す必要も、ジャッジをする必要もありません。

ただ、そう問いかけながら聞いてみる。

すると、相手の声のトーン、表情の微妙な変化、話すテンポ、今まで見えていなかったものが、ふと見えてくるようになります。

これが、矢印が相手に向いている状態です。

最初はすぐに自分に戻ってしまうかもしれません。

でも、気づいたらまた問いかける。

「この人は今、どんな気持ちなんだろう?」

その繰り返しだけで、会話の質は確実に変わっていきます。

なお、それが少し難しいと感じる方は、次の3ステップを活用してみてください。

ステップ①声のトーンと間を観察する

「どのタイミングで声のトーンが上がったか?」「どこで言葉が一瞬、途切れたか?」を観察してください。

例えば、相手が「最近、新しいプロジェクトを始めたんです」と言った時、「新しい」という言葉の瞬間、声のトーンが少し上がったとしたら、それは、その部分に期待やワクワクが込められているサインです。

他のシチュエーションで言うと、「今の仕事も悪くはないんですけど……このままでいいのかな、って思うこともあって」と発言した時の「けど……」の後に視線がわずかに揺れることもあります。

沈黙の中で、答えを探しているのでしょう。

また、「このままでいいのかな」と言う時、語尾が少し下がることがあります。その“間”は、まだ言葉にならない違和感を、心の中で確かめている時間です。不安は、たいてい沈黙と一緒に現れます。