なぜ人は戦争をするのか

【小泉】置き換えるのが一番難しいのは歩兵で、人民解放軍でも2、30年かかると思いますが、軍隊がやっている大部分は間違いなく自動化・無人化されていきます。歩兵と参謀が完全にAIに置き替わったとき、中国が台湾を攻める際の人命損失リスクがなくなるんでしょうね。

小泉悠『世界の大転換』(SB新書)
小泉悠『世界の大転換』(SB新書)

【小泉】中国軍人が観る「人に優しい」新たな戦争』(五月書房新社)という本があります。著者の●宏亮ホウコウリョウは人民解放軍の軍人で、「これまでは、国家が人命の損失を恐れたために大国間戦争が起きなかった。

※●宏亮の「ホウ」はまだれに龍。

今後ロボットが軍隊になっていけば、大国間戦争のリスクは下がり、大国が簡単に人の死なない戦争をする時代になる」と書いています。中国っぽい壮大な話として読みましたが、「だったらサッカーでもいいじゃん。(台湾総統の)頼清徳と習近平が腕相撲してもいいんじゃない?」と思いましたね。

【津上】バーチャル戦争で決着がついて、「負けました!」とかチャットして降伏宣言(笑)。

【小泉】「じゃあ、なぜ人類は戦争するのか?」と言えば、不可逆的な損害を与えることが一種の政治権力として働いている部分がある。住んでいる街が焼け落ちるとか、手足をなくすとか、死とか、相手にとって一番嫌で回復不能な究極の損害を与えて「言うことを聞かせよう」とするところに、軍事力の大きな“効用”があったと思うんです。その点において、ロボット化軍隊同士の戦闘というのは、生身の人間がやる戦争と同じ“効用”を持つのか?

戦争シーン
写真=iStock.com/Gwengoat
※写真はイメージです

人間が死ぬことに戦争の効用がある

【小泉】何千億円もの損失はあっても、「ロボット化人民解放軍とロボット化自衛隊が東シナ海で戦って、ロボット化人民解放軍が負けました。でも人間は一人も死にませんでした」となったときに、「じゃあ尖閣諸島は日本のものでいいんですね?」と言って中国人民が納得するのか? もしもそれで納得ができるならeスポーツでもいいし、腕相撲でも将棋でもいい。

しかし残念ながら、人間が死なないと人間は納得しない。人間が死ぬという可能性に戦争の本質的な……価値という言い方はしたくないので……本質的な“効用”があるので、人間が死ぬ戦争はやめられないんじゃないかという気もします。

今日は中国のかなりディープなお話を伺いました。中国という国はどうも極端に語られがちなところがあるように思うんですが、やはり彼らなりに悩んだり苦しんだりしているし、しかし我々が思ってもみないような強みを持った国でもある、ということがよくわかりました。どうもありがとうございました。

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