アメリカのトランプ大統領と安倍晋三元首相はどんな関係だったのか。『安倍晋三 ドナルド・トランプ交友録』(星海社新書)を書いた梶原麻衣子さんは「蜜月と言われた2人だが、安倍にとっては『耐え忍ぶ4年間』だった。最近では、その苦肉の外交が予想外の形で世界情勢に影響を与えている」という――。

トランプをノーベル平和賞に推薦した男

世界は驚きの連続に包まれている。その震源地は、言うまでもなくアメリカのドナルド・トランプ大統領だ。ベネズエラ・マドゥロ大統領の拘束には驚いたが、さらにその後、ベネズエラの政治活動家で2025年にノーベル平和賞を受賞した政治家・マチャドが、トランプ大統領へ自身の平和賞メダルをプレゼントするに至った。トランプの歓心を買い、ベネズエラでの自身の立場を確立するため、トランプを後ろ盾としようという狙いだろう。

マリア・コリーナ・マチャド
オスロのグランドホテルで開催されたノーベル平和賞記者会見でのマリア・コリーナ・マチャド(写真=Kevin Payravi/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

「いくらなんでも」「そこまでやるか」との感想を抱いた人も少なくないと思うが、これはともすれば安倍晋三元首相による「対トランプ外交」のハウツーが世界的に浸透した結果と言えるかもしれない。

トランプは第一次政権時の2019年、「安倍が私をノーベル平和賞に推薦してくれた!」と明かした。当時安倍自身は推薦した事実を公言しなかったが、実際にトランプが2018年に安倍に懇願し、安倍はそれに応じて推薦を行ったことが明らかになっている。

安倍外交が負の遺産に

当時としてはこれだけでもかなりの驚きだったが、第二次政権となった2025年にはパキスタンやイスラエルがトランプをノーベル平和賞に推薦。トランプ自身もノルウェーに電話をかけて「平和賞をくれ」と要請したものの受賞を逃すと、その後ノルウェーのストーレ首相に抗議ともとれる怒りのメッセージを送っている。文面には〈もはや純粋に平和だけを考える義務は感じない〉とあったという。

トランプがノーベル平和賞にここまでの執着を見せている以上、マチャドが「メダルを献上するくらいで歓心を買えるなら安いものだ」と考えても不思議はない。安倍もトランプへの外交姿勢をへりくだりではないかと批判されたことに対して〈「あなたは立派だ」と(トランプを)口頭で褒めることですべてがうまく行くならばこれに越したことはありません〉(『安倍晋三回顧録』)と述べている。

マチャドの振る舞い、あるいはパキスタンやイスラエルの振る舞いは安倍の対トランプ外交の系譜に連なるもので、実際にトランプの覚えはめでたくなってはいるだろう。トランプとうまくやる方法は安倍に学べと言わんばかりだが、単に外形的に手法を真似て悪びれもしないやり方が横行するとなれば、それは「安倍の対トランプ外交の負の遺産化」を招きかねない。