外国人が秩序を乱すというナラティブ

現在、米国や西欧諸国において、移民人口の増加が社会を分断する大きな政治的なイシューとなっている。こうした動きを捉え、「欧米のてつを踏むな」といった警鐘を鳴らす政治家や有識者も多い。

そうした人々にとって、日本における外国人人口が今後50年間のうちに、先進国の平均的な水準に近づいていくことは、危機的なことに見えるに違いない。

実際、昨今、外国人を日本人と異質なものと見なし、その増加は日本社会の秩序や治安を乱すとする報道が多い。例えば、埼玉県川口市に集住するクルド人による地域の治安の悪化、「経営・管理」の在留資格によって日本に滞在するものの、実際には何の経済活動も行わず、日本に溶け込む気もなく、もっぱら日本の義務教育や国民健康保険、高額療養費制度を濫用するリッチな中国人、出稼ぎのために来日する留学生、地域のごみ出しルールを守らず、騒音問題を引き起こす外国人といったナラティブ(話題)である。

排外主義的な態度が日本の活力を削ぐ

しかし、こういったナラティブは、外国人が日本にどのような動機やメカニズムによって来るのかということを踏まえるならば、およそ荒唐無稽なことばかりである。仮にあったとしてもごく例外的な事例ばかりであり、実際、一部のメディアは同じ事件を何度も繰り返し報道することで、あたかもこういった事件、事故が日常的に起きているかのような印象を与えている。

さらにこのようなナラティブに促されて外国人の受け入れをいたずらに抑制したり、排外主義的な態度をとったりすることは、国際的に見て日本が置かれた有利な条件を見失い、日本社会の活力を大いに削ぐことになるだろう。

欧米諸国も今後はより一層、本格的な少子高齢化を経験する。特に新型コロナ禍が落ち着きを見せ始めた2022年以降、欧米諸国において移民労働者への需要が強まっている背景には、今後のさらなる少子高齢化の中で、労働力の需給が逼迫ひっぱくすることへの危機感の高まりがある。これは、この間、欧米諸国で急激に進んだインフレやそれに対する中央銀行の金利引き上げといった政策の直接的な原因ともなっている。