日本だけの「隠された人口ボーナス」
しかし皮肉なことに、欧米諸国はこれ以上移民を受け入れることが政治的に難しい状況にある。欧州では、ドイツ、フランス、スウェーデン、オーストリアなどにおいて、移民排斥を公約に掲げる政党が躍進している。英国は国境管理の破綻を主な理由として、2016年の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を可決し、その後、離脱した。
また、2025年には、米国で移民排斥など米国第一主義を掲げる第二次トランプ政権が成立した。生産年齢人口がじりじりと減っていく中であっても、これらの国が今後、積極的な移民受け入れに舵を切ることは極めて困難と言ってよい。つまり、欧米諸国は今後、訪れる本格的な少子高齢化を人口構造への直接的なてこ入れではなく、生産性の上昇などの構造改革のみで乗り切る必要があるのである。
では日本はどうか。日本はこれまで移民の受け入れを大々的に行ってこなかったこともあり、実は、シンプルに見て、総人口割合で約10%超の受け入れ余力がある。これは今後、本格化する少子高齢化に直面する先進国の中で、日本だけに与えられた政策オプション――「隠された人口ボーナス」であると言ってよい。
外国人急増に対する不安の背景
一方、近年、予想外に外国人人口が急増していることに対して不安に思う人も増えている。こういった不安の背景には、これまで日本において「移民政策が不在」であったという認識がある。
これは、「いわゆる移民政策をとることは考えていない」(特定技能制度の創設にかかわる2018年の臨時国会における安倍総理〔当時〕の答弁)といった発言に代表される政府の公式見解にとどまらず、それを批判する側にも共通してみられる点である。
例えば、日本における外国人研究(移民研究)の草分けであった梶田孝道は、1990年代以降の日本の外国人受け入れ政策を「サイドドア/バックドアによる受け入れ」と呼んだ。これは、政府が「単純労働者を受け入れない」という建前にもかかわらず、実際には単純労働者への強い需要があり、それに対応して、「技能実習生」や「留学生」「日系ブラジル人」(サイドドア)、「非正規滞在者」(バックドア)など、本来は労働者ではないカテゴリーを通じた受け入れを行ってきたというものである。
また、こういった受け入れのあり方は永住者を基本とした欧米諸国における移民受け入れとは異なるイレギュラーなものであり、移民政策と呼べるものではないと指摘した。
