山本七平が『「空気」の研究』を著したのが1977年。以来、版を重ね超ロングセラーとなっている。同書の問題提起から約50年、変わらず日本を支配している「空気」の正体とは何か。

合理性より半径5メートルの調和を重んじる

日本社会には、論理や法律、あるいは科学的な正しさよりも優先される「何か」がある。山本七平はその正体を「空気」と呼びました。私なりに定義すると「合理性よりも半径5メートルの調和を重んじる同調圧力」となります。「合理性」を持つには、俯瞰する力や全体を見る姿勢が必要ですが、半径5メートルの調和は、限られた部分の整合性なので、「部分最適」にしかなりません。この部分最適をそのまま全体にまで押し広げてしまったときに出てくる不条理な同調圧力のことを「空気」と呼ぶのです。半径5メートル以内では最適だけど、それ以上に広げようとすると、整合がつかなくなってしまうのです。

山本七平『「空気」の研究』(文春文庫)

それに関連して、劇作家の鴻上尚史氏が、2009年に出版した著書『「空気」と「世間」』に「世間が壊れたときに出てくるのが空気」だと書いています。

「世間」は互酬関係で成り立っています。義理と人情、持ちつ持たれつ、お互いさま。ギブ・アンド・テイクの均衡感が共同体の信頼をつくっているわけです。が、それが崩れると、緊急に共同体を仮構しなくてはならなくなる。そのとき、ある人や物を中心としてウチとソトの境界線が恣意的に虚構されることになるわけですが、その「差別の道徳」こそが「空気」の本質です。

(構成=本誌編集部 写真=時事通信フォト)