不確実な時代、漠然とした先行きへの不安感が募る日々。このもやもやとした空気の正体をつかむためにも、この国の歴史を振り返り、現在を読み解くことが必要だ。独立研究家・山口周氏が、これからの日本の生きる道を示す厳選20冊を一挙紹介。

日本に突き付けられた「私たちは何者か」

2025年は、「変化の年」でした。1月にはトランプ米大統領が再登場し、秋には日本で初めての女性首相が誕生。しかし、世界にとって最大の衝撃は、アメリカがついに世界の警察官としての看板を下ろしたことではないでしょうか。戦後、莫大なコストを払いマーシャルプランを打ち出し、紛争地に介入してきたアメリカは、言うなれば世界の“学級委員長”役。でも、そのアメリカが「もう降りる」と言っている。「自国ファースト」を掲げ、各国に関税見直しを迫る姿に、「米国の伝統が崩れた」と嘆く声すら聞かれます。

けれども、立ち止まって考えてみれば、これまでが少々“異常”だっただけのこと。本来、国家が自国の繁栄と幸福を最優先するのは当然で、むしろアメリカは、ようやく“普通の国”になろうとしているのかもしれません。

では日本にとって最大の課題は何か。それは、“副委員長ポジション”から、急に外されてしまったこと。「俺はもう級長から降りるから、日本も自分のことは自分で決めろ」と突き放され、改めて自らのポジショニングを言語化する必要が出てきました。

いま、日本は大きな問いを突き付けられています。「私たちは何者で、どんな価値を大切にする国なのか」と。

高市早苗とドナルド・トランプ
世界の「学級委員長」から降りると言うアメリカ。「副委員長」から外された日本の立ち位置を言語化する必要が出てきた。

戦後日本はアメリカが示す価値観や秩序に従えば“幸せ”になれました。敗戦から復興し、家電三種の神器をそろえ、住宅や教育を整える。まさに「経済成長=善」の一心で走り抜けた結果、1980年代にはついにGDP世界第2位へ。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とも称されました。

しかし現在、日本のGDPは中国、ドイツに抜かれ、インドにも迫られつつあります。一人当たりGDPは世界40位で、数字だけ見れば立派な下り坂の国。でも、それは“幸せの物差し”を「経済成長」一本に限ってしまったから生じた結果にすぎません。本来の日本にはもっと別の“物差し”があったはずだし、そもそも幸せの尺度が一つだけというのもおかしな話です。国も企業も個人も、複数の選択肢を持つことが強みにつながるはずです。

その点、高市早苗政権は再び「強い経済力」を旗印に掲げていますが、「失われた30年」をかけてできなかったことが、同じ手法でいまさらうまくいくとは到底思えません。同じ道を歩めば、むしろ失われた時間は40年、50年と延びるだけではないか。

こうした問題意識から、脳科学者の茂木健一郎さんと私は思考の“旅”に出ました。「日本人とは本来何者で、どんな価値観を大切にしてきたのか」。その源泉を探る旅の集大成が『教養としての日本改造論』(プレジデント社)として、形になりました。

教養としての日本改造論
茂木健一郎 山口 周『教養としての日本改造論』(プレジデント社)
常に新しい視点を提供し続ける2人の思想家が語り尽くす。「西欧の物差し」とは異なる指標とは。日本人がまだ気づいていない、新しい日本の「経営戦略」。

本書をより深く楽しめるよう、私たちの思考の土台となった20冊をご紹介します。私たちと一緒に「日本人は何者か」を探る旅に出ませんか。

茂木健一郎氏(左)と山口周氏(右)。
茂木健一郎氏(左)と山口周氏(右)。

明治維新から150年 近代化で抱えたトラウマ

振り返れば、この30年間……いえ、戦後から数えれば80年間、さらに遡れば明治維新以来の150年間、日本人は相当に過酷な“無理ゲー”を強いられてきたのではないでしょうか。