※本稿は、鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 20杯目』の一部を再編集したものです。
認知症と見分けがつきづらい高齢者のうつ病
うつ病は長らく「心の病」として扱われてきた。しかし、病態研究の進歩により、認識が変わってきたというのは、とりだい病院精神科教授の岩田正明だ。
「うつ病になった人の脳を細かく見ると、神経と神経の接続が少なくなったり神経そのものが萎縮して、情報が伝達されにくくなっています。部位としては、感情や思考をつかさどる前頭葉、そして脳のネットワークの中では海馬や扁桃体にも異常があると言われています。突き詰めると、うつ病は脳の神経機能障害といえます」
うつ病は脳の神経機能の低下により、気分の落ち込みや興味・喜びの喪失といった症状が出る。いずれかの症状があることがうつ病診断の絶対条件だが、それらの症状に加えて、不安感や焦燥感、希死念慮(※1)に襲われたり、思考力が低下することもある。
「うつ病で身体的な症状が出ることもあります。食事をしても味を感じず砂を噛んでいるような感覚に陥る。あるいは食欲がなくなったり、頭が締めつけられるように痛いとか、背中が痛いと訴える患者さんもいます。他の科で異常が見つからず、精神科にきてはじめてうつ病だと判明したケースは少なくありません」
高齢者の場合、認知症と見分けがつきづらい問題もある。うつ病の症状の一つに思考力の低下があげられるが、思考力の低下は認知症の代表的な症状でもある。加齢ととともに活動量が落ちたり体の機能が低下していくため、うつ病になっても本人、周囲が気付きにくい。
「認知症は脳の神経が壊れてしまうため、進行するともとには戻りません。一方、認知症に見えるうつ病は『仮性認知症』と呼ばれています。仮性という表現からわかるように、認知症に見えるうつ病は一時的なものであり、適切な治療をすれば回復します。そこが大きな違いですね」
(※1)死にたいという気持ちが繰り返し浮かぶこと


