母親vs.娘
ある日、74歳の母親は麺が茹でたての熱々の冷やし中華を作ってくれた。別の日は生暖かく色がやや黒ずんだ刺身が皿に盛られていた――。
母親はアルツハイマー型認知症の診断を受けた後、娘の京橋九美さん(仮名・50代)が免許証の返納を促すと、運転で怖い思いをしたのか、母親はあっさり返納を承諾した。
その後、返納したこと忘れて、一生懸命免許証を探していたが、京橋さんは知らないふりを通した。
要介護認定を受けると、結果は要介護1。母親はすぐに週3回のデイサービスの利用を開始した。
ある日、京橋さんと母親が買い物に出かけると、「お久しぶり〜お元気?」と声かけられ、にこやかに立ち話が始まった。しかし、後で「どちら様?」と聞いたら、「知らない」と母親。
家に電話がかかってきた時も、楽しそうにお喋りしていると思ったら、「知らない人。初めて喋ったわよ」と平然としていた。
京橋家の家計の管理は、数年前に亡くなった父親がしていた。そのため、父親の生前に3人で話した時は、「私には分からないことが多いから九美に任せるわ。そのほうが安心ね!」と言っていた。しかし父親他界後は、「私のお金よ! 私がちゃんとやる!」と言って譲らない。
しばらく母親に任せておくと、毎日のようにお金を引き出し、1日数万円ほどのペースで財布からお金が消えていく。
もちろん、「何に使ったの?」とは聞けない。すぐ怒り狂うからだ。
これでは約1000万円あった貯金が、あっという間になくなってしまう……そんな危機感を抱いた京橋さんは、何度も母親を説得して、通帳を預かり、必要なお金だけ渡すようにした。
すると案の定、母親はそれを忘れ、「通帳がない! お金がない! 返せ〜!」と激怒し、仕事中でも電話をしてきたり、寝ている京橋さんを叩き起こしに来たりするようになった。
また、夜中に起きては、誰もいない隣のベッドを見て、「大変! お父さんがいない!」と大騒ぎする。京橋さんは、母親がデイサービスに行っている間にベッドを処分した。
さらに、母親は何かを失くしては家探しが始まり、家中をぐちゃぐちゃにしてしまう。その上、母親はなんでもタンスの中に隠すことが多く、まだ乾いていない洗濯物や財布、飲みかけのビールや柿の種などまで隠してしまう。
京橋さんは、仕事から帰宅すると家の中のアンモニア臭が気になるようになった。臭いの元を探すと、大抵タンスの中で汚れた尿とりパッドの塊を発見した。
京橋さんは、タンスを母親の部屋から撤去。気付いた母親は案の定激怒した。

