「30秒の褒め言葉で、10年以上働いてもらえる」ドンキ創業者・安田隆夫が明かす〈褒め上手〉の奥義(安田 隆夫/文藝春秋 2025年11月号)

今や売上2兆円を超える総合ディスカウントストアのドン・キホーテ。創業者の安田隆夫氏は末期の小細胞肺がんと闘病中だが、若きビジネスパーソンのために起業家人生で掴んだ“奥義”を語った。

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褒めれば職場は変わる

ビジネスの場で褒めることがどれだけ大切か――それを知る良いきっかけがありました。かつてのドン・キホーテは、店舗の売上げは良いものの、従業員同士の仲が悪いという問題を抱えていました。うちの場合、社員以外の被雇用者の9割がメイトさんという時間給労働の方です。人数が多いからかお店の中でメイトさんの間に派閥が生まれ、権力のあるメイトさんが休憩時間にほかの従業員の悪口を言ったりして、険悪なムードがありました。

ドン・キホーテを創業した安田隆夫氏 ©文藝春秋

これを無くすために、誹謗中傷の禁止を徹底しました。14年前、私がまとめたPPIH(パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス、旧ドンキホーテHD)グループの理念集『源流』では「次世代リーダーの心得十二箇条」にこう記しました。

〈「褒める」とは、相手がひそかに誇りをもっていることを見つけ、認めることである〉

人間というものは、自分自身に関心が向きがちです。ここをグッと抑えて、相手に関心を持ち続ける。嫌悪感や不信感、裏切られることへの不安といった、消極的な気持ちを抱きながら褒めているうちはうまくいきません。でも、よくよく観察すると、その人が持つ誇りは意外にたやすく見つけられるものです。さらに認め合えれば、最高の人間関係を築く土台にもなり得ます。

すこし時間はかかりましたが、ドンキでそれが定着したころ、従業員同士が褒め合うようになり、働きやすい雰囲気に変わりました。結果として、仕事に集中できる職場となり、業績にも繋がっていった。ドンキの仕事は忙しくて大変ですが、働き手を集めることにも苦労しなくなりました。ハラスメントのない良い職場だと、従業員が知り合いを呼んで来てくれるからです。