2020年、ユダヤ人国家のイスラエルはイスラム教を国教とするUAE、バーレーンと国交を正常化した。東京大学公共政策大学院の鈴木一人教授は「同じイスラム国家でもアラブ諸国は一枚岩ではない。正しい中東情勢を読み解くには中東各国が持つ『ニュアンス』が重要になる」という――。(第3回)

※本稿は、鈴木一人『地経学とは何か』(新潮選書)の一部を再編集したものです。

2020年9月15日、イスラエル、アラブ首長国連邦、バーレーンはホワイトハウスでアブラハム合意に調印した。
2020年9月15日、イスラエル、アラブ首長国連邦、バーレーンはホワイトハウスでアブラハム合意に調印した。(画像=The White House/PD-USGov/Wikimedia Commons

日本人は本当の中東情勢を知らない

エネルギー資源に関する議論を進めていく上では、中東情勢の影響を考えておかなければなりません。石油ショックからの学びなのでしょうが、日本ではしばしば中東情勢という枠組みが過剰に意識されることがあります。

もちろん、こういう枠組みで中東を見ることが全く無意味だとか無関係だとか言うつもりはなく、中東情勢が極めて重要なのは間違いないのですが、もっと幅広い視野でエネルギーというものを捉えていく必要があると考えています。

日本では、特に原油の輸入という点で圧倒的に中東に依存している実情があって、エネルギー問題の中での中東という角度からの分析に極めて偏っているように私は感じています。

あくまで個人の感想ですが、日本における中東への理解もしくは中東の分析としては、主として国際政治学の中の地域研究という形で中東研究が存在しています。

ただ、地域研究なので、言語や文化といった地域特有の環境や条件に注目しがちであり、特に中東の場合、日本ではあまり馴染みのないイスラム教やユダヤ教という宗教が大きな役割を果たしているので、それを重視する傾向があります。

また、地域研究は特定の国や地域、宗派や部族といった、地域研究者が拠って立つ視点に影響されることが多く、場合によっては中東の問題に対するフェアな見方ができていないものまであります。