※本稿は、鈴木一人『地経学とは何か』(新潮選書)の一部を再編集したものです。
半世紀ぶりに始動した月面探査プロジェクト
宇宙に関して最近日本で話題になったのが、月面探査です。2024年4月10日、ワシントンのホワイトハウスで行われた日米首脳会談の中で、アメリカ主導の月面有人探査「アルテミス計画」において、日本人宇宙飛行士が月面に着陸するという約束が交わされました。アメリカによる最後の着陸から半世紀経った今、私たちはまた月面を目指しているのです。
かつての米ソ宇宙競争の時代、月面着陸には軍事的価値や商業的価値はなく、あくまでシンボルとしての価値が見出されていただけでした。
例えば、月に軍事的な施設をつくってもあまり意味はありません。そんな遠いところから地上に向けてミサイルを撃ったところで効果的な攻撃にはなりませんし、そもそも宇宙条約によって月面の軍事利用は禁止されています。
また、月面探査のことを考える上でもう一つ重要なのが、月面は国家による領有が禁止されていることです。今のところアメリカしか有人の月面着陸には成功していないのですが、アポロ11号が月面に降り立った時に撮影された、アメリカの旗が月面に立てられている有名な写真を見たことがあると思います。
あれは旗を立てただけであって領有の主張ではありません。あくまでもここに来ましたという証明のようなものです。類似した例で言えば、20世紀の初め頃の南極点一番乗り競争があります。あの時も同じように旗が立てられましたが、南極も月面と同様に、国家による領有が禁止(南極の場合は領有権の主張の凍結)されているのです。
月に眠るロケット燃料
では、なぜ今になって、この月面探査が再開されたのでしょうか。しかも、アメリカや日本だけでなく、中国やロシアも参入して、月面探査競争が始まっています。
月をめぐる宇宙競争、それも今回は米中だけでなく、多くの国が参入する第2の宇宙競争が始まろうとしているのはなぜでしょうか。その理由は、1960年代の米ソ宇宙競争とは、かなり違っています。
今ふたたび各国が月面着陸を目指しているのは、月に水資源が存在していることと関係しています。月の南極に水があることは既に月を周回する衛星のデータから確認されていますが、果たしてどのくらいの量があるか、どのような保存形態なのかなど、詳しくはまだ分かっていないことも多くあります。
宇宙空間における水というものは非常に大事で、もちろん人間が飲むためというのもありますが、今一番考えられているのは、水を水素と酸素に電気分解して、それをロケットの燃料として使うことです。
さらに、その燃料を活用して、火星であるとか、それより先の宇宙空間の探査を行うことも、かなり本格的に検討されています。

