日本シリーズが盛り上がりを見せるなか、「阪神梅田本店」のタイガース優勝セールが好調だ。一方で、その100m先にある「阪急うめだ本店」は優勝セールを開催せず静観を続けている。なぜ2つの百貨店は同じ系列でありながら対照的な姿勢を貫くのか。フリーライターの宮武和多哉さんが、2つの百貨店の戦略を取材した――。

お隣なのに売り上げは6倍差

大阪・梅田で、100mの至近距離にそびえる2軒の百貨店は、経営上は同系列なのに、なにかと対照的だ。「阪神梅田本店」が壮大な「阪神タイガース優勝セール」の開催で「在阪メディアジャック」といっていいほど話題を席巻する一方で、目の前にある「阪急うめだ本店」は、目立って優勝セールを開催せず、セールが話題になることもない。

しかし、百貨店としての年間売り上げで見れば「阪神」が647億円、「阪急」が3653億円。なんと6倍も違う。なぜ「阪急」は優勝セールに頼らず「百貨店売り上げ日本一」をキープできているのか。なぜ「阪神」は6倍もの差がある強敵の目の前で生き残っているのか。

実は、この2社は近年まで「阪神vs阪急」という宿命の対決を背負わされた「電鉄系百貨店」どうしのライバルであった。「2つの百貨店」の関係をひもときながら、双方の強みと「なぜ優勝セールをしないの?」という謎を考えてみよう。

大阪梅田ツインタワーズサウス(左)と阪急百貨店と大阪梅田ツインタワー(右)
大阪梅田ツインタワーズサウス(左)と阪急百貨店と大阪梅田ツインタワー(右)(写真=Tokumeigakarinoaoshima/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons、iStock.com/winhorse)

“全身トラ柄”が押し寄せる優勝セール

百貨店2社の秘密を解き明かす前に、まず阪神梅田本店(以下:梅田阪神)の「阪神タイガース優勝セール」に参加してみよう。2025年の優勝セールは、前回(2023年)の優勝セールの1.5倍にものぼる3000人の行列ができ、あまりの混雑ぶりに開店を30分早めたという。

阪神梅田本店 優勝を祝う巨大モニター
筆者撮影
阪神梅田本店 優勝を祝う巨大モニター

1日店長の「トラッキー」「ラッキー」(イメージキャラクターの着ぐるみ)が玄関先で出迎える中、店内にならぶ限定商品は、「モロゾフ」の優勝記念カスタードプリンが378円、「本高砂屋」「ゴンチャロフ」「モロゾフエクラ」などの福袋が各種1080円から。セール品はそこまで値が張るものや「タイガースのロゴ入っただけでこの値段かい!」と突っ込みたくなるものは少なく、それなりの高級品にプチ贅沢程度の価格をつけて、販売されるものが多いようだ。

店内の来客も、ここが大阪・梅田のド真ん中とは思えないくらいインバウンド(訪日客)が少なく、大阪で普通にいる“おっちゃん・おばちゃん”や、全身トラ柄の阪神ファンが大勢を占める。なかにはセール品にしか興味がない人もいて、タイガース優勝の喜びもそこそこに、手分けして限定品・特売品の行列に並んでいる。

もちろん優勝セールの対象商品は食品だけではなく、2階~8階には「2200万円の宝飾品が20%オフ」「176万円の優勝記念純金メダル」などもある……ものの、テレビの中継に映るのは食品フロアの混雑状況ばかり。こうして、タイガースが優勝するたびに「梅田阪神といえば優勝セールとグルメ」と、関西の人々に刷り込まれていくのだ。