歯周病検診の拡大など、国を挙げて「歯の健康」を守る動きが進んでいるが、本当に日本人の歯はそこまで悪いのだろうか。40年にわたって歯科診療に携わってきた小西昭彦氏は、「検診はビジネス」と断言する。そんな「ビジネス歯科医」と良い歯科医の見分け方を聞いた。
デンタルミラーを持つ人と札束を持つ人のイラスト
イラストレーション=タカセマサヒロ

日本人の口腔状態は改善検診拡大は「ビジネス」

「良い歯科医」とは、どんな歯医者だと思いますか?

これはなかなか難しい質問で、一言でこうだと定義できるものではありません。患者も歯科医も一人ひとり違うので、ある人にとっては良い歯科医でも、別の人にとってはそうではないということは普通にあるでしょう。

小西昭彦(こにし・あきひこ)
小西昭彦(こにし・あきひこ)
​1952年、東京都生まれ。80年、日本歯科大学歯学部卒業。85年、東京都新宿区に小西歯科医院を開業し、院長に就任。著書に『歯科治療の新常識』『歯医者選びの新常識 あなたにとって最良の歯医者に出会うために』(ともに阿吽社)など。

ただ一つ言えることは、良い歯科医は患者と誠実に向き合い、コミュニケーションを大切にするということ。しかし、現実には患者との会話より「いかに効率よく治療するか」を重視する経営優先の歯科医が少なくありません。

2024年4月、歯周病検診の対象年齢が拡大されました。歯周病検診とは、一般的な歯科検診とは別に、歯周病に特化して行われるメディカルチェックです。国が推奨し、市区町村が健康増進法の下で実施する検診で、これまでの対象者は40歳、50歳、60歳、70歳でした。ここへ、新たに20歳、30歳が加えられたのです。

表向きには、国を挙げて歯に対する健康意識を高めることが目的とされていますが、私は懐疑的に見ています。

というのも、長年の診療の中で近年の日本人の口腔状態が著しく改善傾向にあることを目の当たりにしてきたからです。なぜ状況が良くなっているにもかかわらず、これまで以上の検診が必要なのでしょうか。そこには、残念ながら「ビジネス」の側面があると言わざるをえません。

まず、日本人の歯の健康状態がいかに改善してきたのか、客観的なデータを用いてご説明しましょう。皆さんは、「8020(ハチマルニイマル)運動」について、聞いたことがあるでしょうか。これは1989年、当時の厚生省と日本歯科医師会が共同で推進した「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という運動です。

人間の歯は、親知らず4本を除くと合計28本。このうち最低20本を健康に維持することで、生涯自分の歯で食べる楽しみを享受しよう、というのが狙いでした。運動開始直後の93年のデータを見ると、8020達成率はわずか10.9%。しかし22年の達成率は61.5%と、30年前の約6倍の数値を記録したのです。

【図表】「8020」達成者は年々増加
出所=令和6年「歯科疾患実態調査」(厚生労働省)より編集部作成

80歳を超えても20本以上自分の歯を維持しているということは、それまでに虫歯や歯周病に罹患する率が減ったということ。私は85年の開院以来、40年にわたって歯科診療を続けてきましたが、たしかにこの10〜20年で虫歯や歯周病患者の数がぐんと減ったことを実感しています。

患者不足の歯科業界で歯科検診は「ドル箱」

そのような状況にありながら、検診推奨の傾向は高まる一方で、とにかく「来院させる」施策が多く見られます。その一番の要因は「歯科診療における患者不足」だと私は考えています。