健康診断で高い数値が出ると「正常値」に戻すよう指導を受ける。だが個人差を無視して機械的に数値で判断しては、健康を損なう可能性が高い。30年以上にわたり6000人を超える高齢者を診てきた医師が、健診妄信に警鐘を鳴らす。
【Part1】健康診断を受けた男性よりも受けていない女性のほうが長生き

レントゲンは結核が死因トップの時代の名残

私は、高齢者向けの本を何冊も出していますが、そのすべてに「健康診断の数値は気にしなくていい」と書いてきました。30年以上にわたり、6000人を超える高齢者を専門に診てきた経験による実感だからです。

健康診断を受けても、寿命は延びません。だから本当は「健康診断など受けなくていい」と言いたいところです。しかし企業などは会社員に健診を受けさせることが義務付けられています。

ですから控えめな言い方にすると、健診を受けて数値の異常を指摘されても、気にする必要はありません。健診など受けなくていいと言う理由は、実施されている検査の内容や評価が、時代遅れであったり、日本の実情に合っていなかったりするからです。体調の悪さや異常の自覚があるならともかく、毎日を快適に暮らしてよく食べてよく眠れているなら、その体調を維持すればいいのです。

たとえば集団健診につきもののレントゲンは、日本人の死因のトップが結核だった1950年代の名残です。レントゲンには胸膜の肥厚や結核腫などの陰影が写りやすいため、かつては結核の発見には有用なものでした。

しかしがんを見つけようとしたら、レントゲンでは見落としが多くなるので、CTを撮るほうがいい。結核が不治の病でなくなり、4人に1人ががんで死ぬ現在、健診の実用性を考えるなら、レントゲンをやめてCTを採用すべきです。

役に立たない検査項目は、ほかにもあります。胃のバリウム検査は、胃潰瘍のような窪みを見つけるのに向いていますが、胃がんを発見するなら圧倒的に胃カメラのほうが優れています。

健診の結果が出ると、医師や保健師から「コレステロール値を下げなさい」と厳しく言われる人も多いでしょう。しかし、これは欧米の健康指導を踏襲しているだけで、日本人には意味がありません。

死因は、国や民族によって異なります。次の表は、日本とアメリカの死亡要因を比べたものです。日本人はがんが圧倒的な1位で、次が心疾患。アメリカと逆です。

【図表】日本はがん、アメリカは心疾患の死亡率が高い

米国公衆衛生局は48年から、ボストン郊外のフラミンガムという町で、長期の疫学研究を始めました。目的は、死因のトップである虚血性心疾患の原因を探るためです。この「フラミンガム調査」によって、生活習慣病や喫煙などの生活習慣と虚血性心疾患との関連が明らかになり、肥満の人ほど心筋梗塞になりやすいこともわかりました。血圧とコレステロール値を下げれば、そうしたリスクを低減できると証明されたため、スタチンという薬を使ってコレステロールを下げたり、心筋梗塞の原因になるとして肉を食べないようにさせたりという健康指導が行われるようになります。

当時のアメリカ人は、1日に300グラムの肉を食べていました。日本人は70グラムしか食べていなかったのに、日本の医者たちも右へ倣えで「肉を減らせ」と提唱したのです。日本人はいまでも、肉を約100グラムしか食べていません。タンパク質は筋肉や血管の材料ですから、少なすぎるのはかえって危険です。