大腸がんは、日本人のがんの部位別死亡者数で、男性の2位、女性の1位を占める。早期発見のための内視鏡検査が重要だが、少なからず見逃しもある。導入が進められているAIの活用で、検査の精度はどれだけ上がったのか、課題は何か。

25万枚の病変画像を見せAIに学習させた

AIを使った大腸内視鏡検査では、用意されるモニターは2台。一つは従来の内視鏡画像を見られるモニター、もう一つはAIが病変の可能性がある疑わしい場所(以下病変)を教えてくれるモニターです。

腸内を見ているときに通知音が鳴ると、AIが病変のある場所を見つけた合図。モニターに目をやるとその部分が○印でマーキングされているので、医師の見逃し回避をバックアップしてくれるほか、内視鏡の様子をリアルタイムで見たいという患者さんも病変の様子をその目で確認して、納得してもらいやすくなります。

左側のモニターには、従来通り内視鏡カメラが撮影した動画が映る。AIがそれを解析し、病変があれば右のモニター上のその部位に○印をつけて通知音を鳴らす。
左側のモニターには、従来通り内視鏡カメラが撮影した動画が映る。AIがそれを解析し、病変があれば右のモニター上のその部位に○印をつけて通知音を鳴らす。

これは私たち国立がん研究センターの研究チームがNECと連携して開発し、2021年に実用化された「WISE VISION」と呼ばれる内視鏡画像解析AIを使った内視鏡検査の模様です。自分の目で病変を確認できるためか、AI内視鏡検査を受けた患者の8割が、「次もAIを使ってほしい」と答えています。

日本のがんの部位別死亡者数(23年)を見ると、大腸がんは男性で2位、女性で1位。このがんは一部の大腸ポリープから発生することがわかっていて、ポリープの段階で内視鏡検査で発見して切除することが、発生率を下げる鍵になります。実際、内視鏡検査で発見した腫瘍性ポリープを切除することで、大腸がんの罹患率を76〜90%抑え、死亡率も53%抑制されたという報告があります。

主な部位別がん死亡者数

ただし問題は、そのポリープの発見です。それまで腸内にできたポリープは、内視鏡医の手で大腸のなかの内視鏡を動かし、くまなく内部を這わせた映像から肉眼で見つける以外、方法はありませんでした。そのため、見逃しも少なからずありました。例えば腸の構造の特徴になっている蛇腹の間に隠れたものや、1センチ未満の小さな病変、また盛り上がりがない平坦な病変などが見逃されやすく、1回の検査で約25%が見逃されて、大腸がんの発見が遅れる原因になっているとも言われていました。

見逃しの理由を分析すると、医師の疲労から集中力が途切れたり、検査の途中でPHSの呼び出しが鳴るなどして注意力が散漫になったり。また大きな腫瘍を発見したことで安堵し、近くにある小さな腫瘍を見逃してしまったミスも聞きます。AIを使った検査のソフトウエアを開発し始めた15年頃には、ヒューマンエラーといえる見逃しをどう防ぐかというのが、学会の大きなテーマのひとつになっていました。

そんな大腸内視鏡検査に私がAIの活用を考えるようになったきっかけは、タイ出張でした。空港の入国審査で、AIによる顔認証の技術が使われていたのです。ちなみに12年にはグーグルが、「人が教えることなく、AIが猫を認識した」と発表。膨大なデータと高性能な計算機能が合わさって、AIが自動的に特徴を見つけて識別するディープラーニングという言葉をよく耳にするようになったのもこの頃です。

入国審査のようにAIが顔で人を認証できるのなら、ポリープの画像を学習させればAIが病変を認識することも可能になるのではないか。そう思いつき、まず始めたのは、国立がん研究センターにあった大腸がんの病変を撮影した内視鏡画像約25万枚を、人海戦術でひたすらAIに読み込ませることでした。画像一枚一枚には、内視鏡科スタッフが所見を付け、1年数カ月をかけて学習のためのデータをAIに与えたのです。

こうして開発を開始してから4年後の20年から21年にかけての5カ月間、国立がん研究センター中央病院と東京慈恵会医科大学附属病院で、110人の患者を対象にAIを使った大腸内視鏡検査が行われました。同じ内視鏡医が過去にAIを使わないで検査をしたときの結果と比べると腺腫発見率(ADR)は、37%から52%に大きく上昇。AIによる内視鏡検査が、大きな成果を生むことが実証されました。

経験豊富な医師なら見逃しは大幅減少

ただし、AIはあくまでも検査の主役ではなく、バックアップ役です。検査の技術があり、腸内を余すところなく上手に撮影できる医師とそうでない医師とでは、同じAIを併用したとしても、結果に差が出ることがわかったのです。例えば内視鏡検査の経験が5年以上ある医師は、AIを使わなかったときの腺腫発見率が41%。ところがAIを使うことで58%まで上昇したという報告がありました。一方、経験5年未満の医師の場合は、23%から32%への上昇にとどまっています。

(構成=福光 恵)