寝ても取れない慢性的な疲れに悩まされるのはなぜなのか。実は、うつ病に繋がる「病的疲労」と一晩で回復する「生理的疲労」は根本的に異なる。疲労のメカニズムを解明した東京慈恵会医科大学の近藤一博氏に取材した――。

自覚なく疲労がたまりぱったり倒れてしまう

「過労死」という単語が英語でも“Karoshi”のまま通用するぐらい、日本は世界屈指の疲労大国だ。日本リカバリー協会「日本の疲労状況2025」によると、日本人男女全体(20〜79歳)に占める「元気な人」の割合は21.4%。一方、高い頻度で「疲れている人」は41.5%、低い頻度で疲れている人の37.0%と合わせると、実に約8割(78.5%)もの人が何らかの疲労を感じている。さらに、高い頻度で疲れている人の割合は、25年には46.3%にまで上昇する見通しだという。

ところで、その「疲労」は2種類に大別されることをご存じだろうか。

一つは「生理的疲労」、もう一つは「病的疲労」だ。生理的疲労は、仕事や運動などで発生し、1日休めば回復するような短期的な疲労で、「健康な疲労」ともいう。かたや病的疲労は、強い疲労感が何カ月も続き、少々休んだくらいでは回復しない、いわゆる「寝ても取れない疲れ」を指す。

疲労医学の第一人者と言われる近藤一博氏(東京慈恵会医科大学「疲労医学講座」特任教授)が「生理的疲労」の正体を明らかにするまで、世界は「疲労」と「疲労感」を混同し、どちらかと言えば疲労感のほうを疲労だと思い込んでいた。

「我々は世界で初めて疲労の原因物質である『リン酸化elF2α』の発見に成功しました。リン酸化elF2α(疲労因子)は、体の中で心臓、肺、消化器などの材料となるタンパク質の合成を担うelF2α(タンパク質合成因子)がリン酸と結びつくことで誕生します。タンパク質合成因子が疲労因子に変化してしまうと、タンパク質の生成量が減り、臓器の働きが低下したり機能障害が起きたりします。こうした疲労因子が増えることで起きる状態が『体の疲れ』の正体です」(近藤氏、以下同)

一方の疲労感とは「休みたい」気持ち。運動や仕事のやりすぎによって体が「もう無理」と悲鳴を上げているとき、「そろそろ危ないよ」と脳に知らせ、無意識に活動を低下させて体が壊れてしまうのを防ぐ。

疲労感を発生させるのは「炎症性サイトカイン」という物質だ。炎症性サイトカインは、私たちの体が、がん細胞や病原体などの異物を察知した際、自ら炎症を起こして異物を排除しようとする免疫反応が作り出す。

「(疲労で発生する)リン酸化elF2αには、炎症性サイトカインを産生させる働きもあります。リン酸化elF2αによって産生された炎症性サイトカインが脳に伝わって疲労感を生じさせることで、ヒトは体の疲れを知ることができるのです」

人口の約8割もの人が、疲れを感じながらも頑張って働いたり運動したりしている日本は、疲労対策大国でもある。昔から疲労に効く食品や栄養ドリンク等が重宝されてきた。だが、疲労の正体や原因物質が解明された今、「疲労に効く」と宣伝されてきた成分のほとんどは「疲労感を抑制する」ものだったと判明。「疲労回復」と宣伝している商品にも「疲労感を減少させる」だけの商品があるので注意が必要だ。

「エナジードリンクやサプリメントに入っていて、これまで疲労回復に効くとされていた物質の多くは抗酸化物質です。疲労感を脳に伝える役割を果たす炎症性サイトカインのほとんどは、肝臓で作られることがわかっています。そして、抗酸化物質は肝臓のelF2αのリン酸化を抑制できても、他の臓器では同じ効果は得られません。つまり、抗酸化物質によって抑えることができるのは疲労感だけで、体中の『疲労』はそのまま残ってしまうのです」