※本稿は、犬飼奈津子『Passion Relations真・広報PR術 想いをこめた「物語」が共感の連鎖を呼ぶ』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
催事が注目されず、頭を抱える日々
名古屋タカシマヤで、今では“伝説の催事”と呼ばれるようになったチョコレートイベント「アムール・デュ・ショコラ」。2001年から始まったこのイベントは、今や売上が40億円を超え、連日メディアに取り上げられる日本最大級の催事に育ちましたが、実は初めからメディアの注目を集めていたわけではありません。
毎年2月のバレンタインシーズンになると、どのメディアもチョコレートの話題であふれています。当然、アムール・デュ・ショコラにも取材が来るはずだと信じ、プレスリリースを送り続けていましたが、まったく反応がなく、頭を抱える日々が続きました。
「なぜ、取材されないんだろう?」
思い切って、あるテレビ局の方に尋ねたところ、返ってきたのはこんな言葉でした。
「『バレンタイン』というと、若い女の子が男の子にチョコレートを贈って告白する文化ですよね。でもうちの視聴者層は40代以上の女性が多いので、ターゲットが違うんです」
その言葉に、私はハッとさせられました。
最初は、催事の名称も「バレンタインランド」という、いかにも“若者向けイベント”という印象のもので、「バレンタイン=若い女性のイベント」という見られ方が強かった時代背景もありました。私もその空気をどこかで前提にしていたのかもしれません。広報として、もっと多様な視点に立つべきだったと、今は思います。
実際には、2000年代頃からすでに“自分へのご褒美”としてチョコレートを購入されるお客様も多くいらっしゃいました。それにもかかわらず、私の広報視点は、その新しい流れを十分に捉えきれていなかったことに気づかされ、深く反省したのを今でも覚えています。
転換点は「仲間のひと言」
「どうすれば、メディアの視聴者層に響く切り口を見つけられるのか?」
そんな悩みを抱えていた頃、ある“ひと言”が、私の心を大きく揺さぶりました。それは、私が広報に着任したのと同じタイミングで食品催事のバイヤーに就任した同期の男性社員の言葉でした。
彼とは、アムール・デュ・ショコラや北海道物産展などの企画で常に連携を取り合い、プレスリリースを作成する際にも常にコミュニケーションを取っていました。そんな彼といつものように「何をすれば、この催事をもっと盛り上げられるか?」と話していたとき、彼が私の眼をまっすぐに見てこんなことを言ったのです。

