自民党総裁選に起きた「異変」
自民党総裁選とは、単なる党内のリーダー選びではない。それは、本来的には政権のリーダー=次期総理大臣を決める“事実上の国政選挙”であり、同時に党内の権力構造をめぐる複雑なゲームでもある。したがって、それは「表」と「裏」、「建前」と「本音」――そして「実力」と「見せ方」が複雑に絡み合う、“二階建て構造”の選挙戦である。
表の顔は議員票。ここには派閥、実務力、政策通、顔の広さといった、いわば「政局のリアリズム」が支配する。水面下の根回し、選挙後の見返り、永田町力学の“見えざる手”が働く。「組織戦」の王道であり、「建前」を超えた“本音の駆け引き”が繰り広げられる場でもある。
「組織戦」の王道が変化し、裏の地殻変動のように蠢いているのが党員票だ。これは地方の党員、支部、地方議員による“もうひとつの民意”であり、そこにはムード、共感、SNSで醸成される“空気”が大きく作用する。ここでは「誰が構想力を示せるか」「誰が共感を集められるか」が問われる。つまりこれは「空気戦」の主戦場であり、「見せ方」の巧拙が大きく票を左右する。
リーダーを決める「本質的な問い」とは
とくに最近の総裁選では、この“空気票”が、組織票の流れすら変える現象が起きている。SNSやテレビ報道で生まれた「時代の空気」が、地方党員に波及し、それが支部会や都道府県連に影響を与え、最終的には中央の議員票の動きまでも揺さぶる。つまり、表(組織)を動かすのは、裏(空気)であるという逆転現象も起き得るのだ。
さらに、候補者に求められるのは、実務能力や政策力といった「実力」だけではない。むしろ今の時代においては、その実力を“どのように伝えるか”“誰にどう見せるか”という「発信力」と「物語化の力」が重要となる。
たとえ実力があっても、“語られなければ存在しない”に等しい。それがメディア社会の現実だ。
このように、自民党総裁選は、かつてのような派閥と人脈だけで決まる時代ではなくなった。「組織票×空気票」「実力×見せ方」「政局×世論」――この複雑な掛け算をどう解くかが、次のリーダーを決める本質的な問いなのである。

