放置すると慢性的な疲労やメンタル不調につながる
ようやく暑さが落ち着いてきたはずなのに、体が重く感じたり、集中力が続かないと悩む人は少なくありません。「夏は何とか乗り切ったのに、9月になると急に体が重くなる」「集中力が続かず、業務の効率が上がらない」といった声も多く聞かれます。
これは、夏の疲労が秋口に表面化する「9月バテ」や「秋バテ」と呼ばれる現象で、季節の変わり目による環境変化や生活習慣の影響が背景にある可能性が指摘されています。放置すると慢性的な疲労やメンタル不調、仕事のパフォーマンス低下につながるリスクがあるため注意が必要です。
今月は、9月バテの正体を医学的な観点から解説し、今日から取り入れられる具体的な対策法をお伝えします。
暑い環境での自律神経は常に「戦闘モード」
9月バテの背景には、夏の暑熱環境が自律神経に与える負担があります。自律神経は体温調節や血圧、心拍数、消化機能などを自動的に調整する重要なシステムです。高温多湿の環境はこれらの調節機能に負荷を与え、知らず知らずのうちに疲弊させていきます。
山口大学の研究では、湿球黒球温度(WBGT)35℃の環境下では、体温は平均0.5~0.9℃上昇、心拍数は1分あたり約20回増加することが確認されました。さらに、副交感神経の低下と交感神経優位が示され、ストレス反応が平常時の1.5~2倍に及ぶことがわかっています(Yamamoto et al., 2007)。
つまり、暑熱環境下では自律神経が常に「戦闘モード」にあり、長時間その状態が続くことで血流や循環機能、体温調節への負担が増加します。
また、夜間の高温は睡眠にも影響します。海外の研究では、夜間に30℃を超える場合、平均で14分の睡眠が削られ、夏から秋にかけての疲労蓄積に影響することが示されています(Minor et al., 2022)。また、日本で行われた大規模調査でも夏季(6月~8月)に睡眠の質が低下することが明らかとなっています(Li et al., 2021)。
このように、夏の間、自律神経には強い負荷がかかり続け、さらに睡眠障害が重なることで回復が妨げられ、自律神経の機能低下が徐々に進行します。9月に入ると、気温差や気圧変動といった追加のストレス要因にさらされ、真夏の間はかろうじて保たれていたバランスが崩れ、だるさや集中力の低下といった不調として表面化しやすくなるのです。実際、国内の研究でも自律神経の調節機能の乱れは疲労感の増加と関連していることが報告されています(Tanaka et al., 2011)。

