何のためにある……?「おじさんビジネス用語」考
画像提供=MEETS CAREER by マイナビ転職

職場で飛び交う「いってこい」「正直ベース」「ガラガラポン」などの言い回し。そうした“おじさんビジネス用語”たちを、あえて使う必要はどこにあるのでしょうか。

「おじさん」というキャッチーな表現の裏側に、実は深い仕事哲学や仕事観が隠れていたりしないだろうか……? 言葉使いという切り口から、上司や先輩のマインドセットに迫れないだろうか……?

そんな仮説のもと、「おじさんビジネス用語」の特徴から用法、付き合い方を言語学者の川添愛さんに考察していただきました。

川添さんアイコン
画像提供=MEETS CAREER by マイナビ転職

著者:川添 愛
1973年生まれ。九州大学文学部卒業後、同大学大学院にて博士(文学)取得。2008年、津田塾大学女性研究者支援センター特任准教授、12年から16年まで国立情報学研究所社会共有知研究センター特任准教授。現在は作家としても活動している。著書に『言語学バーリ・トゥード(〈Round 1〉〈Round 2〉)』『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』『ふだん使いの言語学』『「わかってもらう」ということ』など。

 

どれくらい知ってる? 「おじさんビジネス用語」のバリエーション

「おじさんビジネス用語」というものがあるらしい。私はふだん「言語学者」とかそれに類する肩書きで活動するフリーランサーであり、8年ほど前までは研究機関に勤務していたが、あいにく会社で働いた経験はない。よって、普通のビジネス用語もあまり知らないし、ましてや「おじさんビジネス用語」と聞いてもピンとこない。しかしこのたび「考察してみてほしい」とのお話をいただき、なんだか面白そうなので引き受けてしまった。

さいわい、ネット上には「おじさんビジネス用語」を紹介している記事がいくつかある。筆者がそれらの情報源をあたって「おじさんビジネス用語」と言われている表現の一部をまとめたのが表1である。

表1:「おじさんビジネス用語」として挙げられていた表現の一部

「おじさんビジネス用語」として挙げられていた表現の一部
画像提供=MEETS CAREER by マイナビ転職

「おじさんビジネス用語」が話題になっている背景には、中高年層が職場で使う言葉が若年層に伝わらないという問題が存在するらしい。2023年の民間調査およびマイナビが実施したアンケート(※)によれば、「おじさんビジネス用語」の理解について世代差が存在すること自体は事実であるようだ。

※……マイナビニュース連載「おじさんビジネス用語塾」

しかし、リストを眺めたり記事を読んだりしているだけではいまいち実感が湧かない。これらはビジネスの現場でどの程度使われているのだろうか? また、この中のすべてが本当に「おじさんビジネス用語」と言えるものなのか? また、これらの言葉は、他の「業界用語」とどんな違いがあるのだろうか?

以下ではそれらの疑問について考察する。ただし、あくまで「おじさんビジネス用語」を使う側でも使われる側でもない傍観者の立場から観察・分析した結果なので、ご了承いただいたうえでお読みいただけるとうれしい。