部下が一向に意見を口にしてくれない沈黙の会議。そんな悲惨なシチュエーションを回避するために、やれることは沢山ある。方法の一つが、会議の場で「ダメなアイデア」を聞いてみること。部下の心を軽くし、チームの会議が活性化する魔法の質問を紹介します。

メンバーが沈黙しているのは、会議の設計が間違っているから

「さあ、この企画に何か意見はありませんか?」「どんどんアイデアを提案してください!」「今日は自由に話し合いましょう!」

どれだけ呼びかけても、なかなか口を開かないチームメンバーたち……悪いのは一体、主体性のない部下でしょうか。それとも、会議を取り仕切るチームリーダーのあなたでしょうか。

活発な議論が生まれない会議の原因としてまず考えられるのは、まだ参加者がアイデアや意見を思いつくに至っていないこと。この場合、会議の設計に問題が考えられます。

新規事業を提案するためにチームで60分の会議を設定したとしましょう。まずは冒頭で「うちのチームからも案を出すことになったのですが、何かいいアイデアはありませんか」と聞き、その後、60分まるまる使って話し合いをしよう――あなたがもしこう考えていたとしたら、それは最悪の間違いです。

そもそも会議とは、各メンバーが自分で考えついたアイデアを発表する場ではありません。会議とは、メンバーが対話することで、ひとつのアイデアを参加者全員で創り出す場です。

「新規事業案を提案する」という課題に答えを出すのは、あくまでも会議の最終ゴール。会議のファシリテーターであるあなたは、このゴールにたどり着くように、話し合いのプロセスをしっかりデザインしなければなりません。

会議の最初でいきなり参加者に課題を放り投げるようなことは、決してしてはいけないのです。

どんな事前準備が必要か? 参加者は何人がベストか?

「プロセスをデザインする」と聞くと、何やら難しいテクニックが必要だと思うかもしれません。しかし、会議設計には、基本的なフォーマットがあります。理想的な会議の組み立て方を具体的に紹介しましょう。

まず、会議の開始前に、「何のためにこの会議をやるのか」という課題と問題意識を明確にし、参加者に伝えておきます。会議の目的、目標、前提を共有するのです。会議開始前の周知が難しければ、会議の最初の導入部分でしっかり時間を割いて説明してもいいでしょう。

前提を共有した後は、「種まき」の時間も設けます。課題解決に必要な情報を知るための活動です。関連資料を読んでもらったり、ファシリテーターが事例を紹介したりするインプット型の種まきと、既存の自社サービスの不満をできるだけたくさん挙げたり、最近面白かった自社以外のサービスを思いつく限り調べたりするアウトプット型の種まきの、大きく2種類の方法を使い分けましょう。

入念に準備を整えたら、いよいよ本題です。課題について参加者同士で話し合いを行います。

「人が多すぎて、自分の言いたいことが言えなかった」「参加者が多いと、議論を深めることが難しい」と感じた経験は、誰もが持っていますよね。話し合いが機能する人数は、4~5人だとされています。

10~15人前後の大人数で会議を行う場合は、4~5人のグループに参加者を分けるのがいいでしょう。各グループで話し合い、グループごとにアイデアを出してもらう方法が、会議で課題を解決するのに最適な方法です。全員のモチベーションが非常に高い場合は、参加者を3人にまで絞っても構いません。

ここで紹介した基本を押さえれば、課題への回答というゴールに向かって、参加者全員でアイデアや意見を創り出すことができるようになるはずです。

心理的安全性を高める秘訣「ボツネタの出し合い」

会議の設計に問題がなく、参加者がアイデアや意見を持っているのに、発言がでてこないこともあります。ここで問題になっているのは、心理的安全性です。

心理的安全性とは、「チームにおいて、率直に意見を述べても、関係性が悪化しないと信じられている状態」を意味します。

チーム内の関係性に問題があり、部下の心理的安全性が低いと、「自分の意見を言ったらなんて思われるか怖い」「提案してもどうせ通らないだろう」「自分から言ったら仕事が増えるだけだ」と部下が考えている可能性があるのです。

この状況で有効な質問は、「ボツネタ、ありませんか?」です。私自身も、大企業の企画ミーティングなど、心理的安全性が低いと考えられる会議をファシリテートするときに、冒頭のアイスブレイクで実際にこの質問を使います。

「今日は、いいアイデアを考えていきましょう。でも、いいアイデアを思いつくのって、難しいですよね。なので、まずは、『これは絶対に通らないだろう』『これは到底いい案だとは思えないな』というアイデアを、思いつく限り出してみてくれませんか。」

「いいアイデアを出さなきゃ」というプレッシャーから解放されると、参加者たちは、従来の思考の枠から離れて、自由に考え始めます。ふと頭に浮かんだ突飛な考えも、「これはあくまでもボツネタだ」という口実が与えられているおかげで、躊躇せずに発言できるでしょう。「悪いアイデア」を出すことが話し合いの目的ですから、自分の意見がほかの参加者から批判されることもありません。逆に、「そんな面白い考え方もあるのか!」と、受け入れられます。

参加者の固定観念が強力な場合は、ボツネタを思いつくのすら難しいこともあるかもしれません。その場合は、「過去の惜しいボツネタを教えてください」と問いかけてみてください。

「半年前に私が出したあの企画、結局ボツになってしまいましたが、あと一歩のところまで行ったと思うんですよね」「あのときの○○さんの提案、日の目を見なかったけれど、個人的には好きだったんだよなあ」……。自分の案だけでなく、ほかの人の案でも構いません。過去に実際にあったアイデアを列挙するほうが、新しいアイデアを出すよりも簡単にできるはずです。

ボツネタについて自由に話し合うことの最大のメリットは、「思ったことを発言しても怒られない」というポジティブな経験を参加者が得られることです。チームメンバーの心理的安全性は高まり、会議での発言は飛躍的に多くなるでしょう。

「ありえないアイデア」こそ、オーバーリアクション!

とはいえ、チームリーダーとして議論を聞いているあなたは、部下から出てくる意見のあまりの自由奔放ぶりに、困惑するかもしれません。

しかし、「え、そんなの無理でしょ!?」と思う発言ほど、「それすごく面白いですね!!」とオーバーリアクションするようにしてください。

会議であまり発言が出なかったり、出たとしてもありきたりな意見に終始してしまったりするのは、参加者が規範意識に囚われているから。「このアイデアは出すべきではない」「こういうこと言っといたほうがいいかな」というように、優等生的な規範が外圧となって、アイデアが抑圧されてしまっているのです。

「ありえないアイデア」へのオーバーリアクションは、この規範意識を打破するのに有効です。一般的な規範からはみ出すようなベクトルの意見が出たときに、「えっ! その考え方新しいですね!」と、大袈裟なくらいにポジティブフィードバックをします。

逆に、規範に沿うような意見が出たときは、抑え目にリアクションします。これは、熟練のファシリテーターが、固定観念に囚われない意見を増やし、ありきたりな意見を自然と抑止するときに採用している振る舞いです。

あなたの反応を見て、発言者本人や会議の参加者たちは、「こんなこと言ってもいいんだ」というメッセージを受け取り、それまで忖度して抑え込んでいた「お利巧さんでない意見」を発言するようになるでしょう。

こうして参加者の思考を狭めていた枠をだんだん拡張していくことができれば、議論の創造性は高まっていくに違いありません。

(構成=奥地維也 図版作成=大橋昭一 撮影=石橋素幸)