部下が内気なのは、他者の気持ちに敏感だから
場所は営業部。新しく配属されてきた部下は内気で、営業トークも苦手な様子。もう少し取引先との関係を深めたり、新規開拓したりしてほしいのだが――内向的なメンバーに、もっと積極的になってほしいと悩むときもあるでしょう。彼らの行動を変えることはできるのでしょうか。
内向的な人にも、いろいろなタイプがいます。根本的に人間嫌いで他人と交流したくないというタイプもいますが、その場合は、多くの人と交流しなければならない営業職を勤めるのは辛いと言わざるを得ません。部下本人にも自覚がある場合は、早めに異動させるほかにないでしょう。
ただ、これは稀なケースだと考えられます。多くの場合、内向的な人に積極性が足りないように見えるのは、彼らが「繊細」だからです。
自分が人にどう見られるか、自分の言動が人にどう影響を与えるかに敏感な人は、行動する際に慎重になります。逆に言うと、外交的に見える人は他者の気持ちに少なからず鈍感な部分があるからこそ、臆せず物が言えたり、とっさに行動できたりするのです。
人の気持ちがわかるからこそ、部下は取引先の真の味方になれる
営業マンと聞くと、ガツガツした外交的な人がまずイメージされるでしょう。ところが、実は内向的な人も、営業職やコンサルタントとして強みを発揮する可能性を秘めています。
私たち人間を、氷山に例えてみましょう。その人が実際にする発言・行動は、氷山の全体のうち、水面から姿を現しているごく一部にすぎません。
そして、氷山の大部分が実は水面下に潜っているように、「何を考えてそう発言したのか」「どう思った結果この行動をとったのか」、さらには、「どういう前提に基づいてそう考えたのか」「どんな価値観を持っているからこう思ったのか」といった、目に見える形の発言・行動を生み出すにいたる思考や前提・価値観は、目に見えない形で私たち一人一人の奥深くに隠れています。
ですから、私たちの普段のコミュニケーションにおいて、なかなか相手の本音が見えないのも、無理はないでしょう。ビジネス上の人間関係ともなれば、相手の腹の内を探ることは、なおさら難しくなります。
実利的な交渉のなかで上辺が取り繕われ、簡単には本音が語られない。両者は契約と利益で結びついており、常にお互いを評価者の目で監視している。どんなに友好的でも、真の意味で仲間にはなりきれず、本当の心の内はわからない。
外交的な人は、取引先の真意がわからずとも、恐れをなさずにコミュニケーションすることができるでしょう。相手の懐に飛び込んだり、相手が食いつきそうな提案を積極的に打ち出したりして、自分主導で事態を打開していく力があります。
一方、内向的な人は、アクションを起こす前に、相手の本心を見極めることに長けています。「取引先はこう言っているけど、本当は心のなかでこう思っているのではないか」「実はこういうことに悩んでいて、こういうサービスを求めているんじゃないか」というように、相手に共感しながら、相手の本音を察知する力があると言えるのです。
人の気持ちがわかるからこそ、取引先の真の味方になれる――これが、内向的な人の強みです。実際に、私が共同経営する株式会社MIMIGURIの営業部門でも、内向的な人間が多く所属しています。
「部下の繊細さを否定する」フィードバックはやってはいけない
取引先となかなか関係を築こうとしていない部下は、ビジネスの現場で起きている、本音が語られない敵対的・交渉的コミュニケーションに不安を感じている可能性があります。
内気な性格を自分の短所だと思い込み、「どうしたら引っ込み思案な性格を直せるか」「こんな自分は営業に向いていない」と思い悩んでいるかもしれません。
「相手のことなんて気にしすぎるな」というアドバイスは、部下の繊細さを否定してしまう、最も悪いフィードバックです。
チームリーダーが目指すべきは、部下の繊細さを肯定し、強みへと昇華させることです。
そのためには、取引先とのコミュニケーションに対する部下自身の不安にフォーカスするのではなく、部下がコミュニケーションしている取引先に目を向けさせる必要があります。
「内向的な性格は長所になる!」と部下に気付かせよう
それを可能にする質問が、「取引先が本当に困っていることって何だろう?」です。あなたが答えを知っている口調で詰問するのではなく、あくまでも、「自分はわからないから教えてほしい」とお願いするように聞くことを心がけてください。
こう質問された部下は、持ち前の繊細さを発揮して、取引先が心の内で抱え込んでいる悩みについて思いを馳せるでしょう。
「最近、取引先の自動車周辺機器メーカーへ納品に行くと、どうも雰囲気がピリピリしているけれど、一体なぜだろう。部署のメンバーが替わったわけでもないし、業績が悪化しているわけでもなさそうだ。もしかして、近い将来の法律改正のニュースを受けて、会社全体が困惑しているのではないか。そういえば、担当者のAさんは最近よく、『世の中みんな大変ですからね』と冗談めかして言うようになった。それってもしかして、本当は『うちの会社は最近苦しい』という意味なのかもしれない。考えてみれば、自動運転技術は日に日に進歩しているし、カーナビを主力製品としている取引先は、ますます厳しい立場に置かれているはずだ……」
部下が課題に気付いたら、チームリーダーが第一にすべきは、褒めることです。
「そんなちょっとしたことに気付けるってすごいことだよ」「私はクライアントのそんな変化に全く無頓着だったな」「そういうちょっとした違和感は、本当の意味で取引先の味方になるうえですごくいいヒントになるから、これからも気付いたことがあったら教えてほしい」
繊細さを評価することで、短所だと思っていた内向的な性格が、実は長所になりうるということを、部下に気付かせることができるでしょう。
そのうえで、「じゃあ、あなたはどう取引先に寄り添ってあげられるか」「どうしたらクライアントの味方になってあげられると思うか」と部下に問いかけましょう。
部下は答えを求めて、取引先と積極的にコミュニケーションを始めるはずです。


