部下は「矛盾に満ちたメッセージ」を受け取り続けている
会社の新ビジネスを考案したり、新規の取引先を開拓したりといった新しい挑戦をしてほしいのに、部下はやり方が決まった既存の仕事にばかり時間を使っている――組織の成長を目指すリーダーから見ると、定型業務以上のことをしない部下を物足りなく感じることもあるでしょう。
ただ、日本型組織において部下が無難な仕事ばかり選ぶのは、正直、無理もないと思います。
現状の延長線上のことをやれば「イノベーションを起こせ」と言われ、新しいアイデアを出せば「そんな突飛なこと何でうちの会社でやるんだ」と言われる。リスクを恐れて挑戦しないと怒られ、リスクを取って失敗しても怒られる。Aを優先すればBと言われ、Bを優先するとAと言われる――部下は、会社や上司から矛盾に満ちたメッセージを受け取り続けています。
さらに、成果をあげても給料が上がるわけでもなく、能力のある人から出世できるわけでもありません。第1講でお話ししたように、人間のモチベーション(動機付け)とは、「快に接近し不快から回避したがること」。頑張った結果の報い(=快)が明確でないと、リスクを取ったり新しいことにチャレンジしたりする気は起きません。
部下が、「結局のところ何をすればいいのか」と混乱し、「やっても何も得しないじゃないか」と悟り、「じゃあ何もやらない」とモチベーションを失くしてしまうのも、当然の結果でしょう。
チャレンジが「快」になれば、部下は意欲的になる
部下のモチベーションを上げるためにチームリーダーができるのは、快を想像させることです。
一番わかりやすい快は、報酬でしょう。とはいえ、チームリーダーには部下に報酬を与える権限がないことが多いですよね。人事権を持つ上層部が部下の成果を評価したとしても、昇給や昇進に至るまでにはかなりの時間がかかるのが普通です。
短期的なスパンで動機付けがないと、やる気を維持するのは難しい。では、どうすればいいでしょうか。
モチベーションには、内発的動機と外発的動機があります。内発的動機とは、行動自体が動機になっている状態。「面白そうだからやってみたい」「これができるようになりたい」といった、興味・関心・意欲が内発的動機の代表例です。
一方、外発的動機とは、その行動自体に惹かれるわけではないけれども、ほかの何かのためにその行動をとっている状態。「ちゃんとできないと怒られる」「得するならやろうかな」など、評価・賞罰・強制が外発的動機に当てはまります。
チームリーダーがサポートすべきは、部下の内発的動機です。なぜなら、私たちを行動に駆り立て、継続して物事に取り組ませるのは、やはり、内発的動機だからです。目先の報酬というわかりやすい外発的動機が期待できない場合は、より一層、内発的動機が重要になります。
「自分のいまの枠からちょっとはみ出してみるのって、意外に面白いんだな」「新しいことにチャレンジすると、こんなに成長できるのか」「小さい挑戦を繰り返して成果を生めば、将来の出世にもつながるかな」
一方では昇給や昇進といった外発的動機にロングスパンで目を掛けつつ、もう一方で、自分を脱皮させていくプロセスそのものに対して、1カ月や数カ月という短いスパンで快を感じられるようになれば、部下は新しい仕事にも意欲的になるはずです。
ポイントは、憧れの人を3人挙げること
「憧れの人は誰?」――唐突に聞こえるかもしれませんが、これが、部下の内発的動機を引き出すために効果的な質問です。
部下が現状のコンフォートゾーンに留まっている理由のひとつは、ひと皮もふた皮もむけた自分の未来の姿を想像できていないから。キャリアの視野が狭まっている可能性もあるでしょう。「自分のロールモデルは誰か」を問いかけることで、未来の「なりたい自分」を、高い解像度と広い視野で想像させることが可能になります。
ポイントは、憧れの人を3人程度挙げてもらうこと。現代は価値観が多様化しており、キャリアや働き方もこれまでの世代とは大きく異なります。自分の憧れのすべてを体現している一人を見つけるのは、至難の業でしょう。あえて一人に絞らないことで、自分がどうありたいのか、キャリアの延長に何を見ているのか、より立体的に捉えることができます。
私が共同経営している株式会社MIMIGURIでも、目標設定の際にロールモデルを3人挙げることを推奨しています。憧れの人は、有名人でもいいし、違う業界の人でもいいし、同じ会社の身近な人でもOKです。あなたが全然知らない芸能人の名前が挙がったとしても、焦る必要はありません。
「憧れの人は誰?」という最初の質問は、あくまでも部下を理解するためのきっかけ。「どういう人なのか?」「その人のどこに惹かれたのか?」と質問を続けていきましょう。
「いつから憧れているのか」と、過去に遡って質問するのも重要です。人のこだわりやキャリアの目標は、突然パッと生まれるものではなく、数年にわたる経験が物語として編まれていくなかで形成されるもの。
「2年ぐらい前からです」と言われたら、2年前に何があったのか気になりますよね。逆に、「高校生のときからなんですよね」と言われても、それはそれで驚きです。どんどん深掘りしていきましょう。
その人に憧れを抱き始めたきっかけを問う質問を通して、部下の内面の変遷を知ることができれば、部下の心の奥底に潜む価値観を一層深く理解することができます。
「なりたい自分に近づけるよう頑張ろう」という内発的動機を強化
自分のロールモデルになりそうな人を3人挙げてもらったら、次は、「その人たちに近づくために、いま何ができるか?」「いまの自分には何が足りないと思っているのか?」を聞いてみてください。いまと未来のギャップに目を向けさせ、「なりたい自分に近づけるよう頑張ろう」という、内発的動機を強化するのが狙いです。
過去に立ち返って、「自分がひと皮むけたなと思った場面はある?」と聞いてみるのもいいでしょう。自分が成長した経験を思い出してもらい、そのときどういう条件がそろっていたのか、どう行動したのかを前向きに内省させるのです。
過去の成功体験を振り返った部下は、「あのときと同じように頑張れば、また成長できるはずだ」と気持ちを新たに、未来の成長に向けて一歩を踏み出すでしょう。
上司だからといって、「こうすればいい」といつも頭ごなしに指示を与えるのは得策ではありません。答えを持っているのは、上司ではなく部下。上司の役目はあくまでも、質問によって部下の内面から答えを引き出すことです。憧れの人について話し合った最後は、目標に近づくアドバイスをひと言だけしてあげれば十分でしょう。
内面が変化すれば、憧れの人も変化します。「憧れの人は誰?」という質問は1回きりで終わりにするのではなく、半年ごと、1年ごとに、1on1の場で継続して聞いてみてください。
部下の内面からのモチベーションを継続的に支えることができれば、部下は無難な仕事ばかりに満足することなく、新しい挑戦を続けていくはずです。


