石破茂首相がコメを増産する方針を示した。コメ価格は下がるのか。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「小泉農水大臣は『需要に応じた生産を行う』と語っている。これは減反政策の維持であり、高価格が続くということだ」という――。
2025年8月10日に韓国・仁川で開催される2025年APEC食料安全保障大臣会合の準備を進めている小泉進次郎農林水産大臣
写真=Chris Jung/NurPhoto/NurPhoto via AFP/時事通信フォト
2025年8月10日に韓国・仁川で開催される2025年APEC食料安全保障大臣会合の準備を進めている小泉進次郎農林水産大臣

米価低下に反対の自民党

石破茂総理大臣は、8月5日、「生産量が需要量に対して不足していたことが価格高騰を招いた」などとして、増産にかじを切る方針を表明した。

NHKの世論調査がこれへの賛否を尋ねたところ「賛成」が76%、「反対」が13%だったという。主要各紙は、総理の方針変更を減反廃止と受け止め、米価低下に期待し、影響を受ける農家にセーフティーネットを用意すべきだと主張している。

しかし、自民党の農林族議員の意見はまったく異なる。

自民党総合農林政策調査会の宮下一郎調査会長と農林部会の上月良祐部会長は翌6日、小泉農水大臣と面会し、反対を表明した。会談後、上月部会長は記者団の取材に応じ、「コメを作りたいだけ作ってなんとかなるということではない」と述べ、コメが過剰に生産されて価格が下がり、生産者が影響を受けることについての懸念を示した。

つまり、減反を廃止すれば、コメの生産量が増加して米価が下がるので、これに反対したのだ。これに対し、小泉農水大臣は「今までもこれからも変わらないことは需要に応じた生産だ」と述べ、需要のない増産を促すわけではないという考えを強調したという。つまり、需要が増えた分だけ増産するというだけで、減反は廃止しないというのだ。

石破総理大臣の意見は、相変わらずはっきりしない。

「減反を廃止する」と発言しているようにも思えるし、単に需要が増えた分だけ増産するというようにも思える。輸出を増やすと言うが、これまでも国内価格と輸出価格の差を減反補助金で補てんすることで輸出してきた(山下一仁『コメ高騰の深層』宝島社新書121~124ページ参照)。これだと減反を廃止しなくても輸出は増やせる。小泉農水大臣には、減反について特段強い意志があるわけではない。自民党が反対していることを察知した農水省の事務局の意見を素直に聴いて、「あれは減反廃止なんかではなくて需要が増えた分だけ増産するだけですよ」と自民党農林族議員に伝えたのだろう。

減反維持である。