コメ価格はこのまま下がっていくのだろうか。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「生産量が増えても、JA農協が在庫を調整して市場への供給を減らせば価格は下がらない。小泉農相が放出している備蓄米がなくなれば、価格はまた上昇に転じるだろう」という――。
閣議後に記者会見する小泉進次郎農林水産相=2025年7月22日午前、東京都千代田区
写真=時事通信フォト
閣議後に記者会見する小泉進次郎農林水産相=2025年7月22日午前、東京都千代田区

コメ問題は終わっていない

コメの小売価格が5キロ3500円程度に低下したことから、コメ問題は決着したといわんばかりの報道がなされている。

しかし、これは小泉進次郎農相が備蓄米を特売的に5キロ2000円程度で売り出したため、平均価格が下がっているだけである。従来の銘柄米の価格は、まだ4300円程度でほとんど低下していない。備蓄米がなくなれば、平均価格は4000円台に上昇する。7月27日までの1週間に小売店で販売されたコメの平均価格は、前の週と比べて40円高い5キロあたり3625円と、小幅ながら10週ぶりに値上がりに転じている

しかも、2023年までは銘柄米でも2000円程度かそれを下回る水準だったことを考えると、現在の4000円を超える水準は異常である。

【図表】コメの小売価格推移
筆者作成

他方で、JA農協は、農家に通常年の2倍以上の概算金(出来秋に払う仮渡金)を提示している。これに農協の諸経費を上乗せすると、史上最高水準となっている現在の玄米60キログラム当たり2万8000円と同じくなる。これが精米ベースでは5キロ4300円に相当すると考えると、コメの値段は下がらない。JA農協から買った卸売業者がこれより安く販売すると損失を被るからだ。

米価高騰で麦、大豆やあられ・せんべい用等のコメから主食用のコメへの生産が拡大すると思われたが、新潟などのコメどころでは猛暑と少雨の影響が見込まれている。今回のコメ不足の原因となった23年産米の時と同じである。また、コメの生産が増えても、JA農協が在庫を増やすことで市場への供給を減らせば、米価は下がらない。

7月23日に行われた日米関税交渉では、アメリカ産米の輸入割合を拡大することで合意した。しかし、これも「ミニマムアクセス枠」(年間77万トン)の枠内でアメリカ産米の比率が増える(45%→65%)だけで、しかも食用には向けないとしている。農林族議員やJA農協の反発を考慮してコメの値段を下げないようにしたのだ。小泉農相は少し前には輸入米を入れてもコメの値段を下げると言ったのに、主張を変えている。