この場合に有効な証明手段の1つに、会話の録音がある。今は、携帯電話にも録音機能があるので、約束の内容がつぶさに録音されていれば、訴訟においては高い証明力が認められる可能性がある。
また、メールも有効な証明手段の1つだ。メールのやりとりは双方に同じ記録が残り、交信日時も明確だ。裁判官によって扱い方は違うが、最近は裁判でもよく証拠として挙げられ、認められることが多くなっている。
酒宴に同席した者どうしでメールをやりとりすることは少ないだろうが、例えば酔ってメールし、取引の約束をしてしまった場合などは、契約成立と見なされる可能性が高い。約束した側があとから「酔っていたから」と言い訳しても、まず逃げられない。
一般に、会社間の大口の取引で、契約書が作成される以前の口約束は、内容が詳細でそれを証明できたとしても、契約はまだ成立していないと判断されることが多い。裁判官によっては判断が異なるのだが、慣習的にまだ打ち合わせの段階だと見なされる。
また、稀な例だが、書面によらない贈与の規定が民法にある。酔って「100万円あげるよ」と約束してしまったような場合だ。これは法律上、贈与する前であれば、双方が撤回できる。
これも実際には稀なケースだが、約束が当人の本意ではなく、またそのことを約束された相手が本意ではないと知っていた場合、約束は無効となる。
取引するつもりがないのに、取引したいと偽って約束したが、相手がそれを知っていたというようなケースだ。民法の93条のただし書きに当たるこの条項は、酒の席の口約束を打ち消す手立てとしてよく紹介されるが、実際には上記のようなケースはそうはありえないし、約束を受けるほうが、相手が本意でないのを知っているなどということはまずない。判例でも、このようなケースで契約が無効になることはほとんど見当たらないので留意が必要だ。
口約束のトラブルは、裁判にならなくても互いに気まずい思いをする。酒席での約束ごとは慎むに越したことはない。