そして、ここで紹介したいのが「R=i×a」という“噂の基本公式”である。噂の流布量(Rumour)は、当事者に対する問題の重要性(importance)と、その問題に関する証拠の曖昧さ(ambiguity)との積に比例することを示したもので、心理学者のオルポートとポストマンによって公式化された。

東京中央カウンセリング代表 
塚越友子氏

社会的に責任のある立場にいる会社の社長が不倫というスキャンダルを起こせば、その影響は大きくなり、事の重要性は否応なしに増す。しかし、本当に不倫をしているかどうか、いくら状況証拠を集めたところで、本当のところは当事者にしかわからない。その結果、噂の基本公式に則り、不倫というヤバイ噂の流布量がどっと増える。

一方、経済の成熟化に伴って生産・開発主導からマネジメント主導の企業組織に移行するなかで、人間関係が変化している点に注目しているのが塚越さんだ。

「いま、管理する側の人間に自分がどう見られているか異常に気にする人が増えています。自分のポジションを守ろうとするからなのですが、それが次第に高じていくと攻撃は最大の防御とばかりに『人を蹴落としてでも、自分のポジションを確保しよう』となってきます。そうした社会のことを社会学者のヤングは『排除型社会』と呼んでおり、そこで人を蹴落とすために頻繁に使われるのがヤバイ噂なのではないでしょうか」

先に紹介した外資系システム会社のケースは、排除型社会の典型例といえるだろう。排除のターゲットに据えられて噂の対象になっているのは、自分たちの内集団に属していない孤立無援の人間。しかし、内集団に入っているからといっても、安心はできない。何かの拍子で集団から弾き出されてしまったら、同じようなつらい目にあうかもしれないからである。それゆえヤバイ噂話のボルテージをアップさせ、内集団への帰属意識をアピールするとともに、さらに仲間を増やして集団の強化を図ろうとするのだ。

よく「出る杭は打たれる」といわれるが、いくら仕事の成績がよくても組織のなかで一匹狼的な存在であると、排除の槍玉にあげられやすいのかもしれない。なぜなら、何かヤバイ噂が持ち上がったとき、「そんなことないだろう」とカバーしてくれる仲間がいないためだ。ちなみに銀座のホステスの世界では突出して売り上げ実績が高いと、「枕営業をしている」などとやっかみ半分のヤバイ噂を流されることが多いそうだ。