どうしてヤバイ噂ほど広まってしまうのか
「そもそも人は、自分の関心のない領域のことで噂など立てないものです」と指摘するのは、企業の危機管理のコンサルティングに携わっているエイレックスの江良俊郎社長だ。そして、危機に直面した企業の実態をつぶさに見てきた江良社長が、自らの経験を踏まえながら話す。
「コミュニケーションがうまく取れていない風通しの悪い組織ほど、不満が溜まって危機に陥りやすくなります。その不満と表裏一体の関係にあるのが、社内のヤバイ噂なのではないでしょうか。たとえば、総合職、一般職、派遣社員など同じ職場にいくつもの階層がある組織だと仕事の内容や処遇で不満が鬱積していることが多く、社内の不祥事などの噂が広まりやすいようです」
ブログをはじめソーシャルメディアが普及したうえに、雇用の流動化で社員の愛社精神が希薄化したことで、不祥事など社内の噂話をネットに書き込もうとする際のハードルはひと昔前より低くなっている。それで一大スキャンダルに発展し、会社の社会的信用を大きく傷つけてしまうこともありえる。ただし、面白半分で書き込みをするわけでもなさそうだ。
実は噂が本来持っている機能の1つに「制裁機能」がある。前出の川上教授は「居酒屋でビジネスマンが『あいつは始業時間の朝9時になっても新聞を読んでいて仕事をしない。ちょっと営業成績がいいからといって、部長のお目こぼしを受けているんじゃないか』といった噂話をしていることがあります。自分たちはルールを守っているのに公平に扱われていないといった不満から、制裁を加えているわけです」という。
冒頭のIT企業の不倫にまつわるヤバイ噂の場合、「社長は経理の女性を寵愛し、1人だけ依怙贔屓している。それはズルイことだし、とても許すことなどできない」という潜在意識が社員の間に徐々に芽生えていたのかもしれない。それで全社員が知るヤバイ噂へと広がっていったのではないか。不祥事の噂をネットに書き込もうとするのも、会社に対する制裁の意味合いがあるのだろう。