墓石を引き取って供養する「墓石の墓場」で発見したもの

広島県福山市街地から山道を車で走らせること40分。カーブを曲がると大量の墓石でできた「山」が、視界に飛び込んできた。ここが関西や中国地方一円から運び込まれてくる、墓石の安置場である。

撮影=鵜飼秀徳
福山市の不動院の墓石安置所

1万平方メートルもの広大な敷地に8万基以上も置かれているという。墓石は縦に隙間なく、ギッシリと積まれている。上部から眺めれば、モザイクアートのようにも見える。ところどころ、大きなオベリスク型の墓が突き立っているが、これは近代における戦争で英霊となった軍人の墓である。

「天保(1830〜44年)」「安政(1854〜60年)」といった江戸時代の墓から、十字架がついたキリスト教式の墓、石仏、巨大な合祀型永代供養墓など、ありとあらゆる墓石が眠っている。高級石材の庵治石の墓は新規で建立しようものならベンツ1台分くらいはする代物だが、ここにはゴロゴロとある。いわば「墓石の墓場」である。

驚くことに「令和六年一月三十日寂」と彫られた霊標もあった。わずか1年前に納骨された墓が、早くも墓じまいされているのだ。どういう事情があったのかは分からないが、気分が重くなった。

この墓石安置所を作ったのが、福山市内にある天台寺門宗の不動院である。知り合いから「墓石を置く場所がない」との相談を受けた住職の三島覚道さんが、2001(平成13)年から墓石の受け入れを始めた。

「人を祀っていた墓石が機械で割られていくのが忍びない。宗教を問わず、うちで引き取って供養したい」(三島さん)

不動院が受け入れを始めると、瞬く間に噂が広がり、遠くは東北からも業者が墓石を持ってくるようになった。トレーラーでまとめて100基以上も積んでくる業者も珍しくはない。個人で運んでくる人もいる。過去には廃寺になった寺院の墓石が、まとめて持ち込まれたこともあったという。

撮影=鵜飼秀徳
福山市の不動院の墓石安置所
撮影=鵜飼秀徳
福山市の不動院の墓石安置所

安置料は、大きさにかかわらず1基あたり2500円と格安だ。安置所に置かれるのは、墓碑銘が書かれた竿石だけ。台石や巻石は敷地内で粉砕され、竿石を支える基礎の砂利として利用される。

安置場が眺められる場所に、供養塔と地蔵菩薩が立てられ、定期的に三島さんが読経をしている。たまに、墓石の持ち主が、花と線香を供えにやってくることもあるが「心苦しいが、持ち主の墓石を探すことは不可能」(不動院)という。

撮影=鵜飼秀徳
福山市の不動院の墓石安置所