アスファルトの下地や建設資材、鉄道の敷石に転用
ここで「墓じまい」の流れを説明しよう。まず、菩提寺の住職が「性根(魂)抜き」の儀式をする必要がある。性根抜きを実施しないと、心理的な抵抗感が生まれ、石材業者が撤去を拒否することがある。儀式を済ませた上で、遺骨や土葬遺体を取り出す。東京や東日本の多くの地域では、骨壺ごとカロート(納骨室)に安置していることが多く、そのまま取り出せばよいので簡単だ。
だが、関西地方などでは遺骨を骨壺からざらっと出して、納骨することが多い。したがって、遺骨が「土」に還っていることもある。遺骨が残っていない場合には、「一握の土」を遺骨替わりにする。
厄介なのは、土葬墓である。地方都市や離島などでは、土葬墓が現存していることがある。長方形の広めの区画で、古い墓石が傾いているようなケースは土葬墓である可能性がある。
この場合は重機で3メートルほど掘り返し、遺骨が残っていれば回収する。比較的、遺体が残りやすいアルカリ性の土壌だと、頭蓋骨に髪の毛が残っていたり、遺体が死蝋化していたりすることも。土葬遺体は、改めて火葬することになる。遺骨が残っていない場合は、やはり、墓地区画の土を「遺骨」に替えて、一握り取る。
遺骨を取り出した後に、墓石を撤去する。墓碑銘が書かれた竿石や霊標、竿石を支える台石、カロート、区画を囲んでいる巻石、卒塔婆立てなどを取り外し、更地に戻す。
通常、撤去された石は石材業者が、産廃業者へと渡す。多くは砕いて、アスファルトの下地や建設資材として再利用される。かつては鉄道の敷石にされたケースもあった。ご先祖様の魂が眠っていた墓が、道路や鉄道などのインフラに転用されているとは、知る由もない事実だろう。
だが、「粉砕されるのは忍びない」として、墓石を引き取って供養する寺院があるという。現地を取材した。