53基、約5トン分の墓石を土の中に埋めた
「墓じまい」や「寺院消滅」が進む中、墓石の処分問題が浮上している。
墓石の多くは産業廃棄物として粉砕処理され、土木工事などで再利用される。だが、「先祖代々受け継いできた墓を捨てるのは忍びない」として、墓石を引き取り、供養を続ける寺がある。その数、数万基にも及び、なんとも不思議な景観を作り出している。
近年、しばしば墓石の不法投棄によって、業者が検挙される事案が発生している。
2018(平成30)年に宮城県岩沼市の解体業者が、墓石約11トンを投棄した疑いで逮捕されている。また、翌2019(令和元)年には、福岡県北九州市の土木会社の経営者が産業廃棄物処理法違反(不法投棄)で逮捕された。経営者は同市の霊園で墓じまいが生じた際の墓石の処理を委託されていた。墓石53基(約5トン)分の処分費を浮かせるために、土中に埋めたらしい。
不法投棄ではないものの、住民を不安に陥れた事例もある。2018年、福岡県西区の今津干潟で30基ほどの古い墓石が無造作に転がっているのを、住民が発見して通報。潮が引くと、戒名や没年が刻まれた墓石がいくつもむき出しになるような状態だった。調査の結果、別の地域の寺院に置かれていた墓であることが判明した。寺に納骨堂ができたことで、大量に残ってしまった墓が再利用され、護岸の基礎に使われたという。原型を留める状態で土木資材に使われれば、地域の人は心理的にあまりいい気分にはならないだろう。
墓じまいの急増に伴い、墓石が彷徨いだす――。そんな、シャレにもならない事態が現実になっているのだ。厚生労働省「衛生行政報告例」によると、最新の調査である2023年度の改葬(事実上の墓じまい)の数は全国で16万6886件。2008年度では7万2483件だった。15年前の水準の2倍以上になっている。同時に、撤去された墓石の行き場が問題になっているというわけだ。