ピンチに直面しても一升瓶はなくならなかった

現在、一升瓶は日本酒の消費量減少と共に減りつつあるものの、依然としてなくなることはなく、根強い需要があります。

実際に、2023年には一升瓶不足が明らかになり、酒業界を揺るがせました。これはコロナ禍で飲食店が打撃を受けた影響で需要が激減し、一升瓶全体の生産の4割ほどを占めていたメーカーが製造をやめたことが原因です。

なかには、季節物の日本酒を瓶詰めするために、瓶詰済みの一升瓶をタンクに戻して再利用する、という苦肉の策を行う酒蔵も出たほどです。

こうした事態が起こっても、サイズの小さい4合瓶や他の容器への切り替えは大きく進みませんでした。では、なぜ一升瓶はなくならないのでしょうか。

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一升瓶は日本酒の「シンボル」であり続ける

まず、一升瓶は大容量なので、家庭や飲食店での使用において経済的です。特にお酒一杯当たりの金額で考えると、特に飲食店にとって一升瓶はリーズナブルです。

具体的に数字で示すと、1升瓶が1本3000円、4合瓶が1500円とすると、同じお酒でも100mlあたり40円の差が生まれます。つまり、一升瓶に換算すると750円もお得になるので、日々お酒を提供する飲食店にとってメリットは少なくありません。

また、一升瓶はまだ100年程度の歴史ながらも、日本の伝統的な容器の1つであり、日本酒のシンボルでもあります。贈り物や儀式において一升瓶が使われることも多く、例えば結婚式や祝賀会などのハレの日には、一升瓶に入ったお酒が贈られることが一般的です。このような文化的背景が、一升瓶の需要を支えています。

そのほか、保存性が高く洗浄して再利用できるため、環境に優しい側面も持っています。

このように一升瓶は、経済的にも文化的にも日本に強く根差した容器のため、需要の減退が進んでもなくなることはないと考えられるのです。

私もいつもの銘柄の一升瓶を脇に携えながら、ゆったりと日本酒を嗜むのが至福のひと時であり、時代に反するとはわかりつつも、なくなるには惜しいと感じています。